2013年5月29日水曜日

JSPEN2014演題募集開始

第29回日本静脈経腸栄養学会学術集会(2014年2月27、28日、パシフィコ横浜)の演題募集が開始となっています。

http://jspen.jp/jspen2014/subject/

今回シンポジウムの1つに「リハビリテーションと栄養」が取り上げられています。以下、上記HPからの紹介文の引用です。

リハビリテーションは、ヒトにより健康な生活をもたらすことを目的とした医学の重要な分野である。疾病を治癒に導いても、患者さんのQOLが低下すればその医療行為の価値は低下することになる。身体的、社会的、精神的により満たされるためには、栄養管理とリハビリテーションのコラボレーションが不可欠である。まず、適切な栄養管理とともに行うリハビリテーションの効果について、様々な観点からご発表いただきたい。また、低栄養の看過や栄養療法開始の遅延がもたらすリハビリテーションへの悪影響を回避する方策もお示しいただきたいと考えている。さらに、自分で食べること、より上手に、きれいに食べることは幸福感をもたらす。摂食機能療法に関する発表も歓迎する。このシンポジウムでは、栄養管理とリハビリテーションがともに歩むべき道を照らしていただけるような発表と討論を期待する。

また、「サルコペニアの評価と介入」というシンポジウムも開催されます。以下、上記HPからの紹介文の引用です。

サルコペニアは「加齢とともに出現する骨格筋量の減少ならびに筋力の低下」と定義づけられ、高齢者における転倒、骨折につながる、重要な老年症候群の一コンポーネントである。さらにサルコペニアは高齢者の虚弱状態(frailty)に直接関与しており、生命予後のみならず、身体機能障害、要介護状態の要因として理解されている。サルコペニア自体の概念は歴史的にも浅く、基礎・臨床研究もまだまだ十分成熟しているわけではないが、その成因は多因子が関連しているおり、その中でタンパク質、アミノ酸、ビタミンなどの栄養関連、さらには運動との関連も強調されているところである。今回、サルコペニアの評価ならびに疫学研究、さらには介入を含めた臨床研究を通じて、サルコペニアに対する理解を深め、今後のこの分野の研究の発展に貢献する有意義なディスカッションを行いたい。

以上、引用です。こういったテーマをシンポジウムに取り上げていただけるのは、とても嬉しいですね。リハ栄養やサルコペニアに関心のある多くの方に、演題登録をしていただければと思います。私も頑張ります。よろしくお願い申し上げます。

2013年5月28日火曜日

関節リウマチのBMI低値とQOL低下

関節リウマチ患者ではBMI低値はQOL低下と関連するという論文を紹介します。

Wataru Fukuda, et al. Low body mass index is associated with impaired quality of life in patients with rheumatoid arthritis. International Journal of Rheumatic Diseases, DOI: 10.1111/1756-185X.12079

対象は関節リウマチ患者385人です。栄養状態をBMIで評価して、BMI20未満131人、BMI20~25の163人、BMI25以上の91人の3群に分類しています。上腕筋面積も評価しています。QOLはJHAQとEQ5Dで評価しました。

結果ですが、BMI20未満の群ではBMI20~25の群と比較して、有意にQOLが低かったです。ステロイドの使用量やCRPには3群間で有意な差を認めませんでした。多変量解析では、疾患活動度、罹病機関、CRP、AMAがEQ5Dと関連していました。

以上より関節リウマチ患者ではBMI低値はQOL低下と関連するという結論です。骨格筋減少でBMIだけでなくQOLも低下するようです。炎症とは独立してBMIや筋肉量がQOLに影響を与えているようです。これより、るいそうやサルコペニアの改善でQOLが改善する可能性があるといえます。

Abstract

Aim

To investigate the relationship between quality of life (QOL) and rheumatoid chachesia, malnutrition in patients with rheumatoid arthritis (RA).

Methods

EuroQol Group 5-Dimension Self-Report Questionnaire (EQ5D) and Japanese Health Assessment Questionnaire (JHAQ) scores, body mass index (BMI), arm muscle area (AMA) and clinical indicators were measured in 385 RA patients. One-way analysis of variance for obtained data was conducted among three groups: 131 with low BMI (< 20), 163 with moderate (20–25) and 91 with high BMI (≥25). Then multiple regression analyses for JHAQ and EQ5D scores with nutritional and clinical indicators as independent variables were performed.

Results

EQ5D and JHAQ scores were significantly lower and higher, respectively, in the low BMI group than those in the moderate BMI group. Clinical indicators including doses of corticosteroid were similar among the three groups except for disease duration. Disease activity score (DAS) 28, disease duration, C-reactive protein and AMA were significant variables in the regression model for EQ5D.

Conclusion

Low BMI deteriorates the QOL of RA patients. Muscle protein loss apparently leads to a reduction in BMI and QOL.

2013年5月22日水曜日

大腿骨頚部/転子部骨折における摂食・嚥下障害

JA長野厚生連小諸厚生総合病院リハ科の保屋野さんが、大腿骨頚部/転子部骨折における摂食・嚥下障害―摂食・嚥下機能と栄養の関係―について執筆されています。リハ栄養的に重要な指摘がされています。

http://ptotst-channel.com/single_journal.php?page=51

上記HPより考察を一部引用させていただきます。少し長いですが以下、引用です。図は上記HPを参照してください。

高齢の大腿骨頚部/転子部骨折患者では、受傷し入院後に摂食・嚥下障害を呈する可能性があることが示唆された。摂食・嚥下障害を呈する原因としては、受傷前からの脳卒中や神経疾患の既往や加齢に伴う摂食・嚥下機能の低下(presbyphagia,老嚥)が存在する可能性がある5)ことや骨折、手術などの侵襲に伴う代謝変化による嚥下筋のサルコペニア、低栄養が影響している5)と考えられる。

安定した経口摂取が可能となることにより、栄養状態や全身状態が改善される一要因であることが示唆され、摂食・嚥下障害を呈する大腿部頚部/転子部骨折患者に対するアプローチはリハビリテーションの面からだけではなく、栄養、薬剤など多方面からの包括的な管理が必要であると考えられる(図8)。また、退院時でも低栄養が是正されていないケースがみられることから、このような包括的な管理は退院後も継続されることが必要となるのではないかと思われる。

大腿骨近位部骨折の患者では全例で、栄養評価とともに嚥下評価を行うべきだと考えます。大腿骨近位部骨折では、誤嚥性肺炎や窒息をより予防できるはずです。嚥下評価はEAT-10でも水飲みテストなどのスクリーニングテストでもよいと思います。

2013年5月21日火曜日

急性・重症患者ケア2巻2号

急性・重症患者ケアというICUや集中治療に携わる看護師向けの雑誌の2巻2号で、エキスパートが本気で教える重症患者の栄養管理ー知らないと痛い目をみる!? コツとピットフォールーという特集が組まれています。

http://www.sogo-igaku.co.jp/eshopdo/refer/vid902.html

もちろん侵襲下や疾患別の栄養管理に関する記載が多いですが、栄養の基礎知識の記載も多いです。私は「リハビリテーションと栄養管理~リハと栄養管理はベストカップル~」という原稿を執筆させていただきました。急性・重症患者でも早期リハ栄養管理は大事ですね。

【目 次】  I.栄養管理に必要な基礎知識
  栄養管理の基礎知識
   ~三大栄養素の消化と吸収,排泄まで~(宮澤 靖)
  体内水分と電解質の関係
   ~輸液管理の基本を理解するために~(小竹良文,豊田大介)
  侵襲期における栄養評価・栄養スクリーニング
   ~Let’s栄養アセスメント! ICU NSがみるべきポイント~(宮坂友美,大竹美緒,松田兼一)
  各種栄養素不足による全身への影響
   ~知らないと痛い目をみる!? 栄養素不足~(山本佳子,長野 修)
  経腸栄養の基礎知識
   ~基本を押さえて安全確実な経腸栄養を実施しよう!~(海塚安郎)
  静脈栄養の基礎知識
   ~静脈栄養の基本と応用を理解する~(清水孝宏)

 II.侵襲下における栄養管理に必要な知識
  外因性エネルギーと内因性エネルギー
   ~知らないと危険です!侵襲下におけるエネルギー供給の基本原理~(寺島秀夫)
  侵襲時のエネルギー補充の考え方
   ~既成概念の打破,今こそパラダイムシフト~(寺島秀夫)
  栄養管理中の血糖管理
   ~知っておきたいインスリンの使い方,血糖値の測り方~(江木盛時)

 III.栄養管理に欠かせないプラスの知識
  リハビリテーションと栄養管理
   ~リハと栄養管理はベストカップル~(若林秀隆)
  口腔ケア
   ~見直してみませんか?あなたの口腔ケア~(大野友久)
  急性期における摂食・嚥下管理
   ~患者さんが安全に食べられるように知っておきたい,みておきたいポイントとは?~(朝井政治,神津 玲)
  薬物治療に影響を及ぼす要因
   ~知っておきたい!薬の効果が変わるワケ~(鈴木彰人)
  国内で販売されている各種栄養剤の特徴
   ~病気にも食事の好き嫌いがある!?まずは知っておきたい栄養剤の基本~(平敷好史)

 IV.病態別栄養管理
  心不全の栄養管理
   ~より厳密な栄養管理で心不全の治療にも差をつけよう!~(仙頭佳起,幸村英文,祖父江和哉)
  腎不全の栄養管理
   ~AKIを合併した患者への蛋白質投与量:その投与量で十分ですか?~(内山壮太,中村智之,西田 修)
  消化器外科周術期の栄養管理
   ~手術から順調に回復するために栄養は欠かせない~(福島亮治)
  重症急性膵炎の栄養管理
   ~「膵炎で絶飲・絶食」は時代遅れ!~(真弓俊彦)
  敗血症の栄養管理
   ~敗血症でも早期に経腸栄養を開始しよう!!~(巽 博臣,升田好樹,今泉 均)
  多臓器機能障害・多臓器不全における栄養管理
   ~障害臓器の組合せとその障害程度がとっても大事~(中村卓郎,山田 一)
  人工呼吸管理を要する急性呼吸不全の栄養管理
   ~入院時から継続して最適な栄養管理法を考えよう~(海塚安郎)
  こんな時,栄養投与はストップしたほうがベター?
   ~“食に勝る薬なし”栄養投与を安易に中止して本当に大丈夫?~(尾迫貴章,小谷穣治)

 V.栄養管理における看護ケア
  栄養管理におけるナーシングケア
   ~看護師のかかわり方が重要!栄養に関する合併症を予防するために~(櫻本秀明)

 VI.急性期栄養管理の動向
  急性期栄養管理におけるガイドラインの紹介
   ~米国, 欧州, カナダ, 日本のガイドラインに違いがあるの?~(佐藤格夫,邑田 悟,苛原隆之)

 VII.文献レビュー
  急性期栄養管理における文献レビュー
   ~エビデンスを知ればケアが変わるってホント!?~(瀬尾龍太郎)
  
  書 評:「重症患者と栄養管理Q&A(第3版)」(清水孝宏)
  付 録:本特集で使われる略語一覧
  索 引

2013年5月20日月曜日

第3回北九州リハ栄養研究会



本日(H25.5/20)19:00から、製鉄記念八幡病院4Fで第3回北九州リハビリテーション栄養研究会が開催されます。当日の参加申し込みも可能ですので、お近くの方はぜひご参加いただければと思います。よろしくお願い申し上げます。

【教育講演】
『回復期におけるリハビリテーションと栄養の必要性」
熊本リハビリテーション病院 リハビリテーション科 医師 吉村芳弘 先生
座長 九州厚生年金病院 理学療法士 十時浩二
20:00
【ワークショップ】
『脳卒中回復期に関するリハビリテーション栄養をみんなで考えよう』
コメンテーター
【医 師】吉村 芳弘( 熊本リハビリテーション病院 リハビリテーション科 )
【看 護 師】建宮 実和( 哺育会 浅草病院 主任看護師 )
【管理栄養士】鈴木 達郎( 産業医科大学病院 栄養部 )
座長 製鉄記念八幡病院 理学療法士 鈴木裕也

・定 員: 300 名
・参加費: 500 円

2013年5月19日日曜日

筋肉量減少の実用的なスクリーニング

筋肉量減少の実用的なスクリーニングツールを開発した論文を紹介します。

Michael J. Goodman, Sameer R. Ghate, Panagiotis Mavros, Shuvayu Sen, Robin L. Marcus, Elizabeth Joy, Diana I. Brixner. Development of a practical screening tool to predict low muscle mass using NHANES 1999–2004. Journal of Cachexia, Sarcopenia and Muscle, DOI: 10.1007/s13539-013-0107-9

下記HPで全文PDFで見ることができます。

http://link.springer.com/content/pdf/10.1007%2Fs13539-013-0107-9.pdf

どのような高齢者にDEXAで筋肉量を評価したらよいかを検討しています。結果ですが、多変量解析で年齢とBMIが筋肉量減少と有意に関連していました。男性ではBMI24以下、女性ではBMI22以下の場合、筋肉量減少の確率は50%以上でした。

特に男性でBMI21以下、女性でBMI19以下の場合、筋肉量減少の確率は90%以上でした。以上より、BMIは筋肉量減少と強く関連していて、プライマリ・ケアのセッティングでのスクリーニングに有用という結論です。

下方らのサルコペニア簡易診断基準では、BMI18.5以下もしくは下腿周囲長30cm以下が筋肉量減少を評価する基準となっています。るいそうの場合にはサルコペニアが疑われると考えておいて間違いないと思います。

Abstract

Background

Skeletal muscle mass declines after the age of 50. Loss of skeletal muscle mass is associated with increased morbidity and mortality.

Objective

This study aims to identify predictors of low skeletal muscle mass in older adults toward development of a practical clinical assessment tool for use by clinicians to identify patients requiring dual-energy X-ray absorptiometry (DXA) screening for muscle mass.

Methods

Data were drawn from the National Health and Nutrition Examination Surveys (NHANES) from 1999 to 2004. Appendicular skeletal mass (ASM) was calculated based on DXA scans. Skeletal muscle mass index (SMI) was defined as the ratio of ASM divided by height in square centimeters. Elderly participants were classified as having low muscle mass if the SMI was 1 standard deviation (SD) below the mean SMI of young adults (20–40 years old). Logistic regression was conducted separately in males and females age ≥65 years of age to examine the relationship between patients identified as having low muscle mass and health behavior characteristics, adjusting for comorbid conditions. The model was validated on a separate sample of 200 patients.

Results

Among the NHANES study population, 551 (39.7 %) males and 374 (27.5 %) females had a SMI below the 1 SD cutoff point. NHANES study subjects with a low SMI were older (mean age, 76.2 vs. 72.7 for male; 76.0 vs. 73.7 for female; and both p < 0.0001) and had a lower body mass index (mean BMI, 24.1 vs. 29.4 for male; 22.9 vs. 29.7 for female; p < 0.0001). In adjusted logistic regression analyses, age (for males) and BMI (for both males and females) remained statistically significant. A parsimonious logistic regression model adjusting for age and BMI only had a C statistic of 0.89 for both males and females. The discriminatory power of the parsimonious model increased to 0.93 for males and 0.95 for females when the cutoff defining low SMI was set to 2 SD below the SMI of young adults. In the validation sample, the sensitivity was 81.6 % for males and 90.6 % for females. The specificity was 66.2 % for males and females.

Conclusions

BMI was strongly associated with a low SMI and may be an informative predictor in the primary care setting. The predictive model worked well in a validation sample.

2013年5月15日水曜日

廃用性筋萎縮の蛋白質投与と運動

廃用性筋萎縮のメカニズムと治療としての蛋白質投与と運動の役割に関するレビュー論文を紹介します。

Mallinson JE, Murton AJ. Mechanisms responsible for disuse muscle atrophy: potential role of protein provision and exercise as countermeasures. Nutrition. 2013 Jan;29(1):22-8. doi: 10.1016/j.nut.2012.04.012.

廃用性筋萎縮は傷害後や疾患の治療中によく認め、筋肉量と筋力が減少します。メカニズムについては主にネズミで研究されてきて、最近ようやくヒトでの研究が出てきました。レジスタンストレーニングと栄養による筋蛋白合成が治療戦略として重要です。

レジスタンストレーニングと栄養による筋蛋白合成は、まさにリハ栄養です。従来、廃用性筋萎縮や廃用症候群に対しては、リハやレジスタンストレーニングで対応してきました。しかし廃用症候群では低栄養を9割前後に認めるため、リハ栄養での対応が大切です。

Abstract

Muscle disuse is often observed after injury or during periods of illness, resulting in the loss of muscle mass and strength, with sometimes debilitating consequences. Although substantial advancements have been made in determining the mechanisms responsible for the etiology of muscle disuse atrophy in rodents, only in recent years have studies of any significant number focused on reaffirming these findings in humans. In this review, we discuss the processes responsible for disuse atrophy as based on current evidence and highlight where gaps in our knowledge persist. Furthermore, given the emphasis placed on resistance exercise and nutrition as potential therapeutic countermeasures, we consider recent advancements in the study of resistance exercise and nutrition in the stimulation of muscle protein synthesis and the associated implications when devising effective treatment strategies.

周術期リハビリテーション

「総合リハビリテーション」の最新号(5月号)で「周術期リハビリテーション」が特集されています。私は術後リハの実際‐ICUという原稿を執筆して、ERASとESSENSEの紹介もしました。

http://www.igaku-shoin.co.jp/journalDetail.do?journal=35350

ERASは「キーワードでわかる臨床栄養」のHPを参照してください。詳しいです。
http://www.nutri.co.jp/nutrition/keywords/ch8-2/


ESSENSEは日本外科代謝栄養学会のHPを参照してください。
http://www.jsmmn.jp/essense/


周術期リハでの早期離床のエビデンスは、呼吸リハを除くと実はあまりありません。臨床での実践もERASを含めて、施設間の差が大きくなりつつあるのが現状だと思います。術前・術後リハともリハ栄養ができることは少なくないと考えています。

目次特集 周術期リハビリテーション
現状と課題
菅 俊光
術前・術後のリハビリテーション評価-開胸・開腹術を中心に
石川 愛子・他
術前リハビリテーションの実際-開胸・開腹術を中心に
寺松 寛明・他
術後リハビリテーションの実際-ICU
若林 秀隆
術後リハビリテーションの実際-一般病棟
原 貴敏・他
ハイライトは以下のHPで見れます。

2013年5月14日火曜日

拒食症の運動療法:系統的レビュー

神経性食思不振症に対する運動の系統的レビューを紹介します。

Fiona J. Moola, et al. Exercise in the Care of Patients with Anorexia Nervosa: A Systematic Review of the Literature. Mental Health and Physical Activity, http://dx.doi.org/10.1016/j.mhpa.2013.04.002

神経性食思不振症に対する運動療法のエビデンスは基本的に少ないです。しかし、栄養レポートをしながら実施する運動介入は、医学的に安定した神経性食思不振症のアウトカムを改善しますし、おそらく実施可能で安全です。そのため、運動を神経性食思不振症のケアに含めてよいというレビューです。

Nutritionally supported exercise interventionsというのはまさにリハ栄養です。体重を減少させるために過活動になりやすい部分の活動量コントロールも含めて、神経性食思不振症のリハ栄養はもっと実践されるべきだと考えます。

Highlights

•Anorexia Nervosa (AN) is associated with morbidity and poor psychological health.
•Historically, a negative view toward exercise in AN has been adopted.
Nutritionally supported exercise interventions during treatment can improve outcomes in AN.
•More research is required to elucidate how exercise facilitates enhanced wellbeing.

Abstract

Anorexia Nervosa (AN) is difficult to treat and rates of patient relapse are high. The poor clinical prognosis of AN should encourage researchers and clinicians to consider alternative treatment approaches. Aim: The aim of this article was to review literature on the impact of exercise training interventions for patients living with AN. Method: Following methodological guidelines outlined by the Cochrane Library, a systematic review of the literature was undertaken on the role of exercise in AN. Findings: The incorporation of exercise into treatment for patients with AN does not have a detrimental impact on body mass index (BMI) or eating disorder symptoms. Exercise also appears to enhance quality of life, psychological wellbeing, and compliance to treatment. Only minimal improvements in fitness and strength were noted, possibly due to insufficient training loads of short duration and small sample sizes. Exercise is feasible and acceptable for patients. Discussion: Evidenced based recommendations for the healthful incorporation of activity into treatment for patients with AN and directions for future research, are proposed. Since nutritionally supported exercise training interventions for medically stable patients with AN appear to be safe, clinicians and researchers may want to consider exercise as an important facet of care.

2013年5月13日月曜日

EAT-10による高齢者の嚥下障害の有病割合

EAT-10日本語版は以下のHPからダウンロード可能です。
www.maff.go.jp/j/shokusan/seizo/kaigo/pdf/eat-10.pdf

EAT-10で高齢者の嚥下障害の有病割合を調査した報告を紹介します。

M. Ercilla, C. Ripa, M. Gayan, J.M. Arteche, B. Odriozola, M.C. Bello, I. Barral. Prevalence of dysphagia in the older using ‘Eating Assessment Tool-10’. Eur J Hosp Pharm 2012;19:205-206 doi:10.1136/ejhpharm-2012-000074.316

対象は高齢者病棟に入院している高齢者からランダムに選択した50人(平均年齢78歳)で、嚥下障害はEAT-10で評価し、栄養状態はCONUTで評価しました。結果ですが、EAT-10が3点以上で異常と判定されたのは10人(20%、平均11.7点、幅3-31点)でした。

EAT-10の実施には平均4分かかりました。10人中4人で嚥下障害への対応がされていて、食形態の工夫4人、増粘剤3人で、ゼラチンを使用している人はいませんでした。嚥下障害の10人中8人がCONUTで低栄養(軽度5人、中等度3人)と判定されました。

以上より、高齢者の2割で嚥下障害を認めましたが、嚥下障害への対応がされていたのはそのうち4割のみでした。嚥下障害者の8割に低栄養を認めました。EAT-10の実施は容易なので、高齢者にはルーチンで評価して、嚥下障害に対応できることが望ましいという結論です。

EAT-10を使用した論文はあまりないので、この点では貴重な情報かと思います。ただ、この程度のことであればすでに日本でもデータを出せますので、日本からもEAT-10について情報発信していかなければと感じました。

Abstract

Background Dysphagia is a symptom whose prevalence can be higher than 30% in the older. It is related to higher disability, longer hospital stay and more malnutrition and mortality. The Eating Assessment Tool (EAT-10) is a practical, analogical and easy dysphagia evaluation instrument.
Purpose Determine the prevalence of dysphagia in the older. Evaluate if it was previously detected by the physician and if he established corrective actions. Assess the nutritional status in patients with dysphagia.
Materials and methods 50 patients, 18 male and 32 female, were randomly selected in an older patient unit. Medium age was 78. Dysphagia was measured with EAT-10, a 10 question questionnaire (each scored from 0 to 4). If total score is ≥3, dysphagia may be present. The type of diet as well as gelatin and thickeners intake was registered. Nutritional status was assessed by CONUT (COntrol NUTritional) system. Unlike Nutritional Risk Screening (NRS-2002) which is a screening tool based on weight loss, Body Mass Index, food intake diminution and disease severity, CONUT is an automatic validated tool that classifies nutritional status in normal, mild, moderate or serious malnutrition, based on serum albumin, cholesterol and lymphocytes.
Results EAT-10 was ≥3 in 10 patients (20%) (mean =11,7; range 3-31). Average realisation time was 4 min. Four patients (40%) with EAT-10 ≥3 had corrective actions. All had crushed diet, and 3 had thickeners. None had gelatins. Eight patients out of ten with dysphagia had malnutrition (5 mild, 3 moderate). All patients with moderate malnutrition had nutritional supplements.
Conclusions 20% of patients had dysphagia, but only 40% had corrective actions. Malnutrition prevalence was high (80%) in patients with dysphagia. EAT-10 is an easy and fast dysphagia detecting scale and could avoid malnutrition and other associated problems. So, it would be advisable its routine realisation in older so that corrective actions are established.

病態栄養ガイドブック改訂第4版

日本病態栄養学会編、病態栄養専門師のための病態栄養ガイドブック改訂第4版、メディカルレビュー社が出版されました。

http://m-review.co.jp/book/detail/978-4-7792-1084-6

病態栄養専門師の受験資格として必要となる教育セミナーのテキストです。今回の改訂で第5章 病態栄養と栄養療法の中に、「リハビリテーションと栄養」についての記述が追加されました。テキストにリハ栄養の内容が含まれているのは素晴らしいと個人的に嬉しく思っています。

これからの病態栄養専門師には、基本的なリハ栄養の知識が求められることになります。すでに第3版までの書籍をお持ちの方も少なくないかと思いますが、今回の改訂では誤嚥性肺炎や周術期栄養管理に関する記述も追加されていますので、よかったら読んでいただければと思います。

目次
第1章 日本病態栄養学会の高度専門職業人認定とチーム医療
 1 病態栄養のすすめと日本病態栄養学会の歩み
 2 栄養管理の高度専門職業人の役割と責任
 3 栄養サポートチーム(NST)の意義とこれからの課題

第2章 病態栄養の基礎知識
 1 栄養素の代謝と生理機能
 2 腸管機能と栄養
 3 生体のコントロールシステム―神経・内分泌・免疫―
 4 健康食品の効用と問題点―薬物との相互作用を含めて―

第3章 栄養アセスメントとカルテの記録
 1 栄養のスクリーニング,評価と栄養不良の診断
 2 栄養必要量の算出
 3 栄養食事調査
 4 身体計測(体組成)の評価
 5 身体所見と臨床検査値の見方と栄養管理への活用
 6 POSを中心にしたカルテの見方・書き方と症例のまとめ方

第4章 栄養補給法
 1 治療食―新しい考え方―
 2 栄養補給法とその選択
 3 ライフステージ別の栄養補給の特徴と問題点
  (1)小児
  (2)高齢者

第5章 病態栄養と栄養療法
 1 消化器疾患
  (1)食道・胃・腸疾患
  (2)肝疾患
  (3)胆・膵疾患

 2 代謝疾患
  (1)糖尿病
  (2)脂質異常症
  (3)肥満症
  (4)高尿酸血症と痛風
  (5)骨粗鬆症
  (6)先天性代謝異常

 3 呼吸器疾患
  (1)慢性閉塞性肺疾患
  (2)誤嚥性肺炎

 4 循環器疾患
  (1)高血圧
  (2)動脈硬化
  (3)虚血性心疾患
  (4)うっ血性心不全

 5 腎疾患
  (1)慢性腎臓病(CKD)
  (2)糸球体腎炎とネフローゼ症候群
  (3)急性腎不全
  (4)慢性腎不全
  (5)糖尿病腎症

 6 メタボリックシンドローム

 7 血液疾患

 8 その他の疾患
  (1)内分泌疾患
  (2)摂食障害(神経性食欲不振症,神経性過食症)
  (3)嚥下障害
  (4)食物アレルギー
  (5)褥瘡
  (6)がん

 9 周産期医療
  (1)妊産婦―妊娠高血圧症候群
  (2)妊産婦―糖尿病合併妊娠と妊娠糖尿病
  (3)新生児・低出生体重児

 10 救急・救命医療

 11 リハビリテーションと栄養

 12 外科疾患と栄養―周術期の栄養管理―

 13 終末期緩和医療

第6章 病態栄養教育
 1 栄養教育―計画,実施と評価(個人と集団)―
 2 栄養カウンセリング

資料
 輸液剤と経腸栄養剤

2013年5月12日日曜日

学習イノベーションの未来

今日はGLPの特別シンポジウム「学習イノベーションの未来」に参加してきました。プログラムなどは下記HPを参照してください。今日からGHLPではなくGLPになったそうです。

http://www.ghlp.m.u-tokyo.ac.jp/events/upcoming/future-of-learning-and-teaching/

印象に残ったことだけ箇条書きにします。個人の学習と日本リハビリテーション栄養研究会の運営に少しでも活用できればと思います。

・内向きのExpertiseから外向きのExpert Amateurismへ。専門家は専門細分化するほど領域が内向きになるが、これからはアマチュアでも領域を外向きに広げていく。

・大学授業のレポートをオンラインで提出するだけでなく、学生同士の相互閲覧を可能なシステムにしたら、9割の学生が他者のレポートを閲覧し、レポート全体の質が高くなった。これならレポートのコピペもやや難しそうです。

・「21世紀型スキル」思考の方法―創造性、批判的思考、問題解決、意志決定と学習。仕事の方法―コミュニケーションと協働。仕事の道具―情報通信技術(ICT)と情報リテラシー。世界で暮らすための技能―市民性、生活と職業、個人的および社会的責任

・Learing is a journey of encounter and dialogue with object (world), others, and oneself.

・学習とは対象(世界)、他者(仲間)、自分自身との出会いと対話の旅である。学習とは未知から既知からへの旅であり、世界作り、仲間作り、自分作りである。

・Learning and networking are border-crossing.学習もネットワーキングも領域の境界を超えることで、領域の中も活性化する。

2013年5月11日土曜日

関節形成術後の蛋白質とビタミンD投与

関節形成術後で入院リハをしている肥満の患者に蛋白質とビタミンDを投与した報告を紹介します。

Baer JT. Improving protein and vitamin d status of obese patients participating in physical rehabilitation. Rehabil Nurs. 2013 May-Jun;38(3):115-9. doi: 10.1002/rnj.100.

リサーチクエスチョンは以下の通りです。
P:関節形成術後で入院リハをしている肥満の患者で、蛋白質とビタミンDが不足している場合に
E:蛋白質とビタミンDを投与すると
C:なし
O:蛋白質とビタミンDの不足が改善する
D:比較群のない介入研究

抄録しか読めていないので詳細不明ですが、蛋白質とビタミンDの投与で不足状態は改善したという結果です。この結果がADL自立度や身体機能の向上、筋肉量・筋力の改善、QOL改善、入院期間短縮などリハのアウトカムにつながるかが興味深いです。

入院リハの現場で看護師が栄養評価と介入をしているというのは、素晴らしいと思います。日本でも回復期リハ病棟に勤務する看護師が、リハ栄養管理に関心をもって積極的に栄養改善に取り組んでいただけるようになると嬉しいですね。

Abstract

PURPOSE:

Sarcopenia and vitamin D deficiency increase risk of disability outcomes associated with a million hip and knee replacements annually. The purpose of the present study was to identify protein and vitamin D inadequacy in arthroplasty patients, and observe the effect of supplementation on metabolic markers on protein and vitamin D status.

METHODS:

One hundred and eighty obese arthroplasty patients admitted for inpatient rehabilitation, positive for protein and vitamin D insufficiency, received supplemental protein and vitamin D.

RESULTS AND CONCLUSION:

Following supplementation, normalization of protein and vitamin D status was achieved. Nutrient supplementation during physical rehabilitation provided an efficient and effective means to reverse nutrient deficiency in an obese, orthopedic population.

CLINICAL RELEVANCE:

Inpatient physical rehabilitation is an opportune environment for nurses to provide education and intervention of nutrient supplementation, which may lessen consequences of sarcopenic obesity and related frailty disorders.

2013年5月9日木曜日

体育の科学:サルコペニア肥満と栄養

体育の科学の最新号(63巻5月号)で「筋機能からみた後期高齢者の健康」が特集されています。私は「サルコペニア肥満と栄養」について執筆しました。雑誌を入手できる方はよかったら見てくださいね。
http://www.kyorin-shoin.co.jp/MagDetail.aspx?PID=50395&LINK=magazine.aspx?PID=Z1

特集 筋機能からみた後期高齢者の健康

ポピュレーションアプローチとしての「健幸」なまちへの政策転換を
久野 譜也(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)

後期高齢者の生活機能の低下
鈴木 隆雄(国立長寿医療研究センター研究所長)
 
筋肉の老化と再生メカニズム
山田  茂(実践女子大学大学院生活科学研究科教授)

サルコペニア肥満と運動
田辺  解(筑波大学体育系研究員)
久野 譜也(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)

サルコペニア肥満と栄養
若林 秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科助教)

虚弱高齢者の運動指導
大渕 修一(東京都健康長寿医療センター在宅療養支援研究副部長)

東京大学高齢社会総合研究機構がめざすもの
辻  哲夫(東京大学高齢社会総合研究機構特任教授)
 
後期高齢者増に対応する社会システム
吉澤 裕世(筑波大学大学院人間総合科学研究科博士課程スポーツ医学専攻)
久野 譜也(筑波大学大学院人間総合科学研究科教授)

2013年5月6日月曜日

Wikipediaにサルコペニア

日本リハビリテーション栄養研究会の会員の方が、Wikipediaにサルコペニアの項目を作成してくれました。見ていただければわかりますが、内容的にもよくできています。

http://ja.wikipedia.org/wiki/サルコペニア

英語ではWikipediaにsarcopeniaのページがありましたが、日本語では今までありませんでした。今後、サルコペニアで検索したら、Wikipediaのこのページがトップに出てくるかもしれませんね。私のブログはより検索順位が下がりそうです(笑)

2013年5月1日水曜日

実践コミュニティ

エティエンヌ・ウェインガー、リチャード・マクダーモット、ウィリアム・M・スナイダー(野村恭彦監修、野中郁次郎解説、櫻井祐子訳):コミュニティ・オブ・プラクティス―ナレッジ社会の新たな知識形態の実践.翔泳社;2002、を紹介します。

http://books.shoeisha.co.jp/book/b72796.html

医療人は多くの学会や研究会に参加、所属していますが、これらは実践コミュニティといえます。特に私の場合、日本リハビリテーション栄養研究会を始めいくつかの研究会を運営しているため、活気のある学習する組織を運営できればと思い、内容をまとめてみました。

実践コミュニティを発展させることに目を向けがちですが、5段階の発展モデルでは最後に変容として、どんなに健全なコミュニティでも、寿命を迎えるとあります。振り返ってみれば寿命を迎えてしまった組織もありました。これもある程度はやむをえないのかと感じています。以下、まとめです。

 実践コミュニティ(コミュニティ・オブ・プラクティス)とは、「あるテーマに関する関心や問題、熱意などを共有し、その分野の知識や技能を、持続的な相互交流を通じて深めていく人々の集団」である。この言葉が最初に登場したのは、書籍「状況に埋め込まれた学習―正統的周辺参加」の中である。この書籍では、仕立て屋を例に挙げて伝統的な徒弟制度における学習の多くは、職人や上級徒弟の間の相互交流で行われていると分析し、「学習はコミュニティ・オブ・プラクティスへの参加の過程である」とした。ここでの学習とは、個人が知能や技能を習得することではなく、実践コミュニティへの参加を通して得られる役割の変化や過程そのものである。

 実践コミュニティはどこにでもあり、誰もが職場や学校、家庭、趣味などを通じて、いくつかの実践コミュニティに所属しており、目新しいものではない。しかし、実践コミュニティは、学習する組織を実現させるための具体的な組織基盤を提供する。実践コミュニティの基本的な構造は「領域」、「コミュニティ」、「実践」という3つの基本要素の組み合わせである一連の問題を定義する知識の領域(ドメイン)この領域に関心をもつ人々のコミュニティ(人々の集まり)、この領域内で効果的に仕事をするために生み出す共通の実践(プラクティス)で構成される。これら3つの要素がうまくかみ合って初めて、実践コミュニティは知識を生み出し、共有する責任を担うことのできる社会的枠組となる。

 実践コミュニティは自然に発展を遂げるが、適切な設計を行えばコミュニティを大きく発展させることができる。なぜならメンバーは設計することを通じて、発展の触媒となるような知識やイベント、役割を特定できるからである。組織にある情熱や人間関係、自発的な活動の大切さを十分認識するような形で、組織をも設計する。実践コミュニティの育成には、経験から引き出された以下の7原則がある
①進化を前提とした設計を行う。
②内部と外部それぞれの視点を取り入れる。
③さまざまなレベルの参加を奨励する。
④公と私それぞれのコミュニティ空間を作る。
⑤価値に焦点をあてる。
⑥親近感と刺激を組み合わせる。
⑦コミュニティのリズムを生み出す。

 実践コミュニティの発展には、5つの段階がある。潜在、結託、成熟、維持・向上、変容である。コミュニティがこれらの段階を経て進化するにつれ、コミュニティを発展させるために必要な活動もまた変わっていく。
①潜在
 コミュニティの発展は、すでに存在する社会的ネットワークから始まる。重要な問題に関心を持つ人々が非公式な集団を形成し、これらの人々がネットワーク作りを始めることが多い。潜在的なコミュニティは発展したコミュニティの基本要素をすでにいくつか備えており、発展する可能性を十分に秘めている。
②結託
 コミュニティの構築は、計画段階の人脈作りからすでに始まってはいるが、コミュニティ・イベントの開催をもって結託し、正式に立ち上げられる。この時期に、メンバー間の結びつきや信頼を築き、共通の関心や必要性に対する認識を高めるような活動を行うことが、特に重要である。
③成熟
 成熟段階の間にコミュニティが直面する主な課題は、その価値を確立することから、コミュニティの焦点、役割および境界をはっきりさせることへと移っていく。しばしばこの段階で、領域とコミュニティ(人数)と実践が同時に拡大する。この段階での主要な課題は、次のとおりである。
 領域:領域が組織で果たす役割や、他の領域との関係を明らかにすること。
 コミュニティ:もはや単なる専門家の友人ネットワークではないコミュニティの境界を管理すること。
 実践:コミュニティの知識を体系化し、知識の世話人としての役割を真剣に受け止める。コミュニティ内部にある知識の格差に気付き、知識の最前線がどこにあるかを知るようになり、より体系的なやり方でコミュニティの中核的な実践を定義する必要を感じ始める。
④維持・向上
 成熟したコミュニティにとって主要な課題は、実践、メンバー、技術、組織などとの関係が成長に伴って自然に変化する中で、いかにして勢いを持続させるかということである。時には活力の低下が悪循環を引き起こすこともある。この段階での主要な課題は、次のとおりである。
 領域:領域の有用性を保ち、組織での影響力を高める。
 コミュニティ:コミュニティの雰囲気と知的焦点を、活気に満ちた魅力的なものにする。
 実践:コミュニティを常に最先端の状態にとどめておく。
⑤変容
 コミュニティの劇的な変容や突然の死は、誕生、成長、寿命などと同じように自然な出来事である。どんなに健全なコミュニティでも、寿命を迎える。コミュニティが変容する方法には、衰弱する、社交クラブとなる、分裂や合併、制度化がある。コミュニティがはかない存在だからこそ、メンバーは今コミュニティで経験していること―活気、深いかかわり合い、仲間意識など―の進化を認めることができる。

目次
 第1章 実践コミュニティについて―今なぜ重要なのか
 第2章 実践コミュニティとその構成要素
 第3章 実践コミュニティ育成の七原則
 第4章 発展の初期段階―実践コミュニティの計画と立ち上げ
 第5章 発展の成熟段階―実践コミュニティを成長させ、維持する
 第6章 分散型コミュニティという挑戦
 第7章 実践コミュニティのマイナス面
 第8章 価値創造の評価と管理
 第9章 コミュニティを核とした知識促進活動
 第10章 世界の再構築―組織を超えたコミュニティ