2012年12月12日水曜日

sarcopenic dysphagia

sarcopenic dysphagiaに関する日本からのレター論文を紹介します。

Kuroda Y, Kuroda R. Relationship between thinness and swallowing function in Japanese older adults: implications for sarcopenic dysphagia. J Am Geriatr Soc. 2012;60(9):1785-6. doi: 10.1111/j.1532-5415.2012.04123.x.

レター論文なので抄録はありません。以下論文を紹介します。対象は65歳以上で嚥下障害が疑われる入院患者55人で、悪性腫瘍患者は除外されています。疾患は肺炎28人、消化器疾患11人、心疾患5人、整形疾患5人、その他6人です。55人中40人に認知症を認めます。

るいそうの評価として、BMIではなく上腕周囲長(MUAC)を用いています。ねたきり患者では体重測定より容易であり、BMIとの相関が報告されているためです。

嚥下機能の評価として、graded water-swallowing test (GWST)を用いています。これは2ml、3ml、5mlの水とトロミ水を飲んでいただき、0点(2mlのトロミで異常)から6点(5mlの水で正常)の6段階で評価しています。

身体活動は6段階で0(完全に寝たきり)から5(介助なしで歩行可能)で評価しています。コミュニケーション能力は10段階で0(完全に不可能)から10(全く支障なし)で評価しています。血清アルブミンも調査しています。

結果ですが、上腕周囲長の平均は19.4cm(11.2~26.2)でJARD2001の同年代、性別と比較して、40%が2SD以下でした。血清アルブミンの平均は2.7g/dl(1.5~4.1)、GWSTは平均4.1点(0~6)。身体活動は平均1.3点(0~5)。コミュニケーション能力の平均は3.9(0~10)でした。

認知症の有無でGWSTと上腕周囲長に有意差を認めませんでした。GWSTは上腕周囲長とのみ有意な相関を認め(相関係数0.48)、他の項目とは有意な相関を認めませんでした。

ほとんどの患者にるいそうや身体活動制限を認め、GWSTは上腕周囲長とのみ有意な相関を認めました。これより嚥下障害はるいそうと関連し、Frailtyや認知症の有無とは関連しないことが示唆されます。

この結果をもっともよく説明できる考え方は、嚥下筋も含めた除脂肪体重の全般的な減少が、上腕周囲長と嚥下機能低下の関連の原因であり、日本の高齢者におけるsarcopenic dysphagiaの存在が考えられます。

限界として、上腕周囲長は筋肉量減少を正確に反映していないこと、嚥下筋の筋肉量と筋力を測定していないこと、GWSTによる嚥下評価の妥当性が検証されていないこと、サルコペニアの診断をしていないことがあります。さらなる研究が必要です。

以上、論文の紹介です。sarcopenic dysphagiaというサルコペニアの摂食・嚥下障害の英語は、初めてみました。私は書籍でDysphagia due to sarcopeniaと訳しましたが、今後はsarcopenic dysphagiaですね。

sarcopenic dysphagiaという単語を作り、J Am Geriatr Socに掲載されたというのは素晴らしいですね。これでサルコペニアの摂食・嚥下障害という考え方もより広まると思います。

対象疾患に脳卒中がほとんど含まれていません。ただ、脳卒中の既往がある方(顕在的にも潜在的にも)はそれなりにいると思いますので、嚥下障害の原因はサルコペニアだけでなく、麻痺や加齢・疾患によるその他の要因もあるのではと推測します。

研究の限界に関しては、私もよく理解できます。私は日本語の論文にしかできませんでしたが、寝たきり患者ではサルコペニアの診断が困難で、検査機器による筋肉量、筋力評価も困難です。嚥下障害に関しては、嚥下障害の重症度スケールやVEの結果もあるとなおよいと感じました。

栄養状態はアルブミンと上腕周囲長での評価ですが、上腕三頭筋皮下脂肪厚も評価したうえで、上腕筋囲、上腕筋面積やMNA-SFでの評価もあるとなおよいと思います。

限界はいくつかあるとはいえ、素晴らしい発表だと私は考えます。この研究をベースとして、より質の高いsarcopenic dysphagiaの臨床研究が日本で行われ、世界に発信されると嬉しいですね。頑張らないと、という気持になりました。

4 件のコメント:

  1. 黒田喜寿12/24/2012

    若林先生、私どものレター論文を丁寧にご紹介下さり有難うございます。方法論上の限界はご指摘いただいた通りです。今後、本格的な研究が現れてこの問題が明らかになっていくことを期待しています。実は、私がこの分野に関心を持つようになったのは、若林先生のブログを拝見したことの影響も大きいのです。いつも貴重な情報を発信していただき、ありがとうございます。

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  2. 黒田先生、コメントをくださりどうもありがとうございます。
    とても重要な論文だと判断しましたので、多くの方に知っていただきたいと思い、内容まで踏み込んで紹介させていただきました。本格的な研究はこれから増えていくと考えていますし、私も頑張ります。
    3月21日に長崎NST研究会で講演させていただきます。もしお時間が許すようでしたら、いらしていただけると嬉しいです。ご検討のほどよろしくお願い申し上げます。

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    1. 黒田喜寿12/27/2012

      若林先生、3月の講演会のお誘い有難うございます。貴重な機会なので元より出席させて頂く予定でした。楽しみにしております。

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  3. 黒田先生、どうもありがとうございます。お会いできることをとても楽しみにしております。よろしくお願い申し上げます。

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