2012年1月25日水曜日

脳出血後の嚥下障害に対する早期介入

昨日紹介した「急性期脳卒中の低栄養:レビュー」で引用されていた日本発の英語論文を紹介します。脳出血後の嚥下障害に対する早期介入に関する後ろ向きコホート研究です。

Hideaki Takahata, Keisuke Tsutsumi, Hiroshi Baba, Izumi Nagata, and Masahiro Yonekura: Early intervention to promote oral feeding in patients with intracerebral hemorrhage: a retrospective cohort study. BMC Neurol. 2011; 11: 6. doi: 10.1186/1471-2377-11-6

下記のHPで全文PDFで見ることができます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3034675/pdf/1471-2377-11-6.pdf

脳出血後の嚥下障害に対する早期介入を行うと、経口摂取できる割合が高くなり、呼吸器感染症の合併割合が低くなるという結果です。臨床的にはとても納得できる結果で、それを英語論文として執筆していることは素晴らしいと思います。私にはなかなかできていませんので…。

ただ、小山珠美さんが勤務する東名厚木病院では脳出血に限らず早期経口摂取に挑戦していて、肺炎例でも素晴らしい経口摂取割合を達成しています。東名厚木病院の取り組みを英語論文にできればもっとインパクトのある論文になるのにと感じます。

Background
Stroke is a major cause of dysphagia, but little is known about when and how dysphagic patients should be fed and treated after an acute stroke. The purpose of this study is to establish the feasibility, risks and clinical outcomes of early intensive oral care and a new speech and language therapist/nurse led structured policy for oral feeding in patients with an acute intracerebral hemorrhage (ICH).

Methods
A total of 219 patients with spontaneous ICH who were admitted to our institution from 2004 to 2007 were retrospectively analyzed. An early intervention program for oral feeding, which consisted of intensive oral care and early behavioral interventions, was introduced from April 2005 and fully operational by January 2006. Outcomes were compared between an early intervention group of 129 patients recruited after January 2006 and a historical control group of 90 patients recruited between January 2004 and March 2005. A logistic regression technique was used to adjust for baseline differences between the groups. To analyze time to attain oral feeding, the Kaplan-Meier method and Cox proportional hazard model were used.

Results
The proportion of patients who could tolerate oral feeding was significantly higher in the early intervention group compared with the control group (112/129 (86.8%) vs. 61/90 (67.8%); odds ratio 3.13, 95% CI, 1.59-6.15; P < 0.001). After adjusting for baseline imbalances, the odds ratio was 4.42 (95% CI, 1.81-10.8; P = 0.001). The incidence of chest infection was lower in the early intervention group compared with the control group (27/129 (20.9%) vs. 32/90 (35.6%); odds ratio 0.48, 95% CI, 0.26-0.88; P = 0.016). A log-rank test found a significant difference in nutritional supplementation-free survival between the two groups (hazard ratio 1.94, 95% CI, 1.46-2.71; P < 0.001).

Conclusions
Our data suggest that the techniques can be used safely and possibly with enough benefit to justify a randomized controlled trial. Further investigation is needed to solve the eating problems that are associated with patients recovering from a severe stroke.

9 件のコメント:

  1. 吉川幸織1/27/2012

    読んでみました。ちゃんと理解できているかわからないのですが、「早期経口摂取介入」といっても、口腔ケアと熟練した医師や看護師やSTによる嚥下評価(VF,VE含む)早期離床と、環境調整(多分、飲食するものの形態や姿勢など)をするといいよ、ということのようですね。合っていますでしょうか。
    もしそうであれば、「早期経口摂取介入」という訳し方はちょっと怖い気がしました。上記の2つのポイントをすっ飛ばして「早く食べさせた方が早くよくなる」という、20年前くらいの常識が戻ってきそうで…。

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  2. 吉川様、貴重なコメントをどうもありがとうございます。確かに早期からの適切な嚥下評価・介入ということですので、早期経口摂取介入では意訳のしすぎだと反省しております。ただ、論文をきちんと読んでいただければ、20年前の常識が戻る心配はないかと思っています。今後ともよろしくお願いいたします。どうもありがとうございました。

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  3. 吉川先生、若林先生、ありがとうございます。著者です。

    自分では「脳出血後の嚥下障害に対する早期介入」としてみました。
    http://blogs.yahoo.co.jp/drhideous/43090890.html

    早期介入の中身はintensive oral careとearly initiation of oral feedingが中心です。食事時の注意点は吉川先生御指摘のようにpostureとdiet modificationが中心です。ちなみに今回のstudyの介入群でVFが行われたのは約5%でした。(5%が多いか少ないかは母集団のデータが論文中にありますので各自で判断していただければ幸いです。)

    そもそもこの手のデータ収集・解析は2004年に自分自身初めて行ってみて(日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 8(2): 258-258, 2004.)
    http://www.geocities.jp/drhideous/dysphagiaafterstroke.htm
    その後に高橋治城先生や小山珠美先生も同様の結果を発表されているのですが
    日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 9(3): 337-338, 2005.(高橋先生)
    日本摂食・嚥下リハビリテーション学会雑誌 11(3): 317-317, 2007.(小山先生)
    3者で結果も結論もあまり変わりはないようです。ただ、そもそも母集団の異なるところで誰の結果が良い悪いというのを論じることはできないと思いますし、比較対照群のない後ろ向きのケースシリーズで「早期から一生懸命やったら良かった」って主張してもあまり説得力がないと思ってコントロール群を設定して世界の誰もが読める言語で書いてみました。とはいえ、私の研究も後ろ向き調査なので査読者からは「訓練の効果ではない」ということを幾度も言われました。今後は傾向スコアを用いて再度解析してみようと思っています。

    ところで、私は1994年から脳卒中後の嚥下障害を勉強しはじめて、同時にVFもやり始めたのですが、「早く食べさせた方が早くよくなる」というのが20年前の常識だったというのを知りませんでした。よろしかったらその当時に何が常識だったのかを教えていただけますか?すみませんが宜しくお願いします。<(_ _)>

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  4. 高畠先生、貴重なコメントをどうもありがとうございます。「脳出血後の嚥下障害に対する早期介入」にブログのタイトルを修正させていただきます。
    私は脳出血後の嚥下障害全例にVFを行う必要はないというスタンスです。
    英語で執筆した結果、内容がよいと私が感じた脳卒中の低栄養のレビュー論文に引用されたわけですし、素晴らしいです。
    ちなみに小山珠美先生たちの東名厚木病院での取り組みは、日本摂食・嚥下リハ学会誌の4月号に原著論文として掲載される予定です。これも素晴らしい内容ですので、多くの方に読んでほしいと思います。

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  5. 若林先生、即レスありがとうございます。早すぎてビックリ(゚д゚)です。(笑)
    英語→日本語は人それぞれ感じ方もあるし自分ではあんまりこだわってなかったのでなんだか恐縮です。
    実は、自分があの論文を書いているときに小山先生もご自身のものを準備されていて、お互い「がんばりましょう」と言いながらやっていたので掲載予定が決まったのは私にとっても大変嬉しいことです。

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  6. 高畠先生、こちらこそ即レスどうもありがとうございます。私は小山先生の影響で「早期経口摂取」がかなり身に沁み込んでいますので、意訳になりました。
    私も若干ですが、小山先生の論文のお手伝いをさせていただいたので、掲載予定はとても嬉しいです。

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  7. 吉川幸織1/30/2012

    先生方の貴重なご意見を拝読して、とても勉強になりました。

    ちなみに、私が勤務していた4つの病院のうち2つは三次救急病院でしたが、1つはVFなんて言葉を知らない医師が大半で、もちろんリハ専門医もおらず、専門医の必要性をリハビリスタッフ自体も感じていないような状況です。周辺の病院も、そういうところが多い地域です。

    そこでよく私が言われるのは「早く食べられるようにせよ。食べれば状態はよくなる」という言葉です。主治医からも、家族からも、患者本人からも言われます。

    「嚥下障害があってまだ経口摂取は難しいと思いますが、ゼリーからくらいから」と言うと、主治医から「どうしてだ。早くご飯を食べられるようにせよ。カプサイシンを取るとよいらしいが唐辛子を食べさせたらどうか」と言われました。冗談ではなく本気で(笑)

    ERASプロトコル導入もあり、欧米の栄養や嚥下の論文を元に、医師と話を進めることがあるのですが、和訳で誤解を招くこともあるので、ついつい書いてしまいました。環境調整やリハや適切な評価を抜きにした「早期経口摂取」という言葉だけが独り歩きをしないように、言葉の扱いを慎重にしたいと思っています。

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  8. 吉川先生、「唐辛子を食べさせたらどうだ」っていうのは悲しいけれど笑えますね。

    何が安全なのかというのもまだまだ結論は定まっていないのかもしれませんが、誰もが認める「安全な食べ方(safe feeding)」を明らかにしていきたいものです。

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  9. 吉川様、高畠先生、コメントどうもありがとうございます。私の周りでは環境調整やリハや適切な評価を抜きにした「早期経口摂取」などありえませんが、そのような事情があるのですね。
    Safe feedingを明らかにしたいですね。誰もが認めるには質の高いエビデンスを出さないといけませんが、高畠先生、期待しています(笑)。私も頑張ります。

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