2011年1月26日水曜日

冠動脈バイパス術後患者における術前心臓悪液質は再入院と関係する

雑誌「心臓リハビリテーション」に、冠動脈バイパス術後患者における術前心臓悪液質は再入院と関係するという論文が掲載されています。

飯田有輝ほか:冠動脈バイパス術後患者における術前心臓悪液質は再入院と関係する.心臓リハビリテーション15(2)254-260, 2010.

心臓悪液質の患者の多くは栄養状態や心機能が悪いので、再入院と強く関連することは当然といえば当然かもしれません。ただ、心臓悪液質のエビデンスは現状では少ないので、エビデンスをきちんと作ることは素晴らしいと思います。

この研究では、心臓悪液質は「意図したものではない、あるいは浮腫の軽減によるものではない体重減少が、過去6ヵ月で6%以上生じたもの」とされています。心臓に限らず悪液質の定義としては、体重減少だけでは不十分かと思います。CRP陽性などの検査値異常や食思不振も含めた定義のほうがなおよいと感じました。

推測ですが、心臓以外が原因の悪液質を術前から認める場合、冠動脈バイパス術以外の手術でも再入院と関係するかもしれません。術前に悪液質・前悪液質の有無を診断して、悪液質の場合には栄養・運動・薬物など多方面から介入することが、再入院の予防に大切だと思います。

抄録

【目的】心臓悪液質は、心機能低下例に高率に合併し予後を悪化させる危険因子であるが、再入院との関係は明かされていない。本研究は冠動脈バイパス術(CABG)術前の心臓悪液質と退院後早期の再入院との関係を検討した。

【対象と方法】2006年1月~2008年6月に当院にて待機的にCABGを行った患者127例(平均年齢66.9±9.6歳、女性28例)を対象とし、6ヵ月以内の再入院群25例と対照群102例に分けた。2群間で性別、年齢、術前後のBMIならびに左室駆出率(LVEF)、NYHA、interleukin(IL)-6、総蛋白、アルブミン、コレステロール、ヘモグロビン、術後在院日数の比較、ならびに心不全、心房細動、高血圧、高脂血症、糖尿病、慢性腎不全、陳旧性心筋梗塞、心臓悪液質の有無を比較し、有意差を認めた項目を独立変数としてロジスティック回帰分析を行った。さらに心臓悪液質の有無による患者背景の違いを検討した。心臓悪液質は、「意図したものではない、あるいは浮腫の軽減によるものではない体重減少が、過去6ヵ月で6%以上生じたもの」とした。

【結果】再入院群では、対照群と比較して術前BMI、術前LVEF、NYHAのクラス、総蛋白、アルブミンが低く、術直後IL-6が高値であり(p<0.05)、心臓悪液質、慢性心不全、心房細動、慢性腎不全を有する症例が多かった(p<0.05)。再入院に関連する因子として術前BMI(OR:0.819、95%CI:0.677~0.990、p=0.039)、慢性腎不全(OR:4.722、95%CI:1.046~21.33、p=0.044)、心臓悪液質(OR:5.173、95%CI:1.136~23.56、p=0.034)が抽出された。心臓悪液質合併例は全体の10.2%にみられ、非合併例と比較してBMI、LVEF、NYHAのクラス、ヘモグロビン、総蛋白、アルブミン、中性脂肪が低く、術直後IL-6が高値であり、慢性心不全、心房細動を有する症例が多かった。

【結語】心臓悪液質合併例では、術前の栄養状態が悪く術後炎症作用が強かったことより、心臓悪液質は術後も遷延すると考えられる。本結果は心臓悪液質が再入院に強く関連しており、術後再入院予防の観点からも心臓悪液質進行に対する予防的介入の必要性があると思われた。

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