2010年6月30日水曜日

Society on Cachexia and Wasting Disorders

サルコペニアや悪液質に関心のある人なら以前から知っていたかもしれませんが、私は今日はじめてSociety on Cachexia and Wasting Disordersの存在を知りました。今までESPENの資料ばかりフォローしていましたが、この学会の資料も要フォローです。

http://www.lms-events.com/19/index.php

2年に1回悪液質の学会(Cachexia Conference)が行われていて、次回第6回は来年12月上旬に神戸で開催されるそうです。これには私も参加したいと思っています。

このHPでは第3回、第4回、第5回の抄録集を見ることができます。第5回の抄録集を少し見ていたのですが、個人的には興味のあるテーマが満載です。

http://www.lms-events.com/19/5th_Cachexia_Conference_2009_Abstracts.pdf

自分が関心を持ったタイトルを一部だけ抜粋します。興味がある方は上記の抄録集HPで抄録も確認してみてください。時間があれば後日、一部の抄録を改めて紹介します。

1. “Hippocrates” clinical research in cachexia lecture:
Cancer cachexia: a multidimensional problem
Ken Fearon, Edinburgh, UK
2. Cachexia: the need for epidemiological data
Claude Pichard, Geneve, Switzerland
3. How does cachexia cause death?
Mitja Lainscak, Golnik, Slovenia
4. Cachexia consensus: several definitions with common facts
Maurizio Muscaritoli, Rome, Italy
5. Update on the outcomes of the 2008 Consensus
Meeting on Endpoints for Cachexia Trials
William Evans, Little Rock, USA

50. Testosterone, frailty and clinical trials
John Morley, St. Louis, USA
51. Cachexia treatment developments: successes and failures
Alessandro Laviano, Rome, Italy
52. Beta-2 agonists
Silvia Busquets, Barcelona, Spain
53. Alternative medicine in cachexia
Joan Vidal-Jové, Barcelona, Spain
54. Exercise, anticatabolic strategies and the treatment of cachexia
Giovanni Mantovani, Cagliari, Italy

78. New insights on EPA & fish oil
Josep Argilés, Barcelona, Spain
79. New insights on nutrition in heart failure
Stefan Anker, Berlin, Germany
80. New insights on nutrition and COPD
Annemie Schols, Maastricht, Netherlands
81. Brand new research data on branched-chain amino acids and HMB
Filippo Rossi-Fanelli, Rome, Italy

臨床栄養8月号

1ヶ月後に発行される雑誌「臨床栄養」8月号の特集は、「適切な栄養管理はリハビリテーションの第一歩」ということで、リハ栄養がとりあげられています。

http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/eiyo/forenotice.cfm

臨床栄養8月号ご案内(第117巻 第2号)

【特集】適切な栄養管理はリハビリテーションの第一歩
1. 「リハビリテーション栄養」の考え方
 若林秀隆 横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科
2. リハビリテーションで問題となる栄養不良
 (1)筋力低下
  倉田由季 東名厚木病院リハビリテーション科
 (2)持久力低下
  石田直子 横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科
 (3)嚥下障害
  園田明子 済生会若草病院リハビリテーション科
 (4)病棟でのADL低下
  浅田友紀 栗山赤十字病院看護部
 (5)口腔・咀嚼機能障害
  藤本篤士 渓仁会札幌西円山病院歯科
3. 管理栄養士とリハビリテーション
 熊谷直子 横浜市立脳血管医療センター栄養科
4. NSTにおけるリハビリテーション関連職種の役割
 湧上 聖 宜野湾記念病院
〔トピックス〕サルコペニアと悪液質
 鈴村里佳 総合病院聖隷浜松病院栄養課
〔トピックス〕機能訓練室での臨床栄養管理
 嶋津さゆり 熊本リハビリテーション病院栄養管理科

管理栄養士向けの雑誌でリハの特集が組まれることは少ないと思いますし、リハ栄養の特集は当然初めてとなります。気が早いですが紹介させていただきました。多くの方に読んでいただけると嬉しいです。

2010年6月29日火曜日

大腿骨頚部骨折とサルコペニア

広義のサルコペニア(すべての原因による筋肉量と筋力の低下)で考えると、大腿骨頚部骨折の筋萎縮の様子を把握しやすいと思います。

広義のサルコペニアの分類

原発性サルコペニア(Primary sarcopenia)
 加齢以外の原因なし(Age-related)
二次性サルコペニア(Secondary sarcopenia)
 活動に関連したサルコペニア(Acitivity-related)
 疾患に関連したサルコペニア(Disease-related)
 栄養に関連したサルコペニア(Nutrition-related)

大腿骨頚部骨折とサルコペニア

原発性サルコペニア
 高齢者に多い。
活動に関連したサルコペニア
 骨折後から周術期はベッド上安静となる。
疾患に関連したサルコペニア
 骨折・手術による侵襲を認める。
栄養に関連したサルコペニア
 周術期の禁食、不適切な栄養管理で悪化。

つまり、4つの原因すべてが重複するため、サルコペニアが周術期に急速に進行する場合があります。

大腿骨頚部骨折のサルコペニアによる嚥下障害

原発性サルコペニア
 高齢者に多い。
活動に関連したサルコペニア
 周術期は禁食となる。
疾患に関連したサルコペニア
 骨折・手術による侵襲で嚥下筋に筋萎縮を認める。
栄養に関連したサルコペニア
 周術期の禁食、不適切な栄養管理で嚥下筋に筋萎縮が悪化する。

つまり、大腿骨頚部骨折では周術期にサルコペニアによる嚥下障害を認めることが少なからずあります。誤嚥性肺炎や窒息になることも珍しくありません。

すべての大腿骨頚部骨折患者で嚥下障害と栄養障害を疑うことが大切です。

JSPEN2011演題募集開始

JSPEN2011(2月17-18日、名古屋国際会議場)の演題募集が開始となりました。

http://jspen.jp/jspen2011/index.php

申込み期間は6月28日(月)正午~2010年8月24日(火)正午までです。今回は要望演題がたくさんあります。個人的には可能であれば一般演題よりも要望演題での演題登録をお勧めします。

私は「広義のサルコペニアによる摂食・嚥下障害の病態と栄養管理」という演題で要望演題7「嚥下障害の病態と栄養管理」で登録しました。残念ながら1番ではありませんした…。以下、抄録です。

摂食・嚥下障害の原因の1つに、嚥下筋のサルコペニアがある。サルコペニアの定義は、狭義では加齢に伴う筋肉量の低下、広義ではすべての原因による筋肉量・筋力の低下となる。広義のサルコペニアの原因には、加齢、活動(廃用)、疾患(侵襲、悪液質、原疾患)、栄養(飢餓)がある。
高齢者では加齢に伴い嚥下筋のサルコペニアを認めることが増加する。活動に伴う廃用性筋萎縮は絶食で生じる。誤嚥性肺炎などの侵襲で嚥下筋も含めた筋蛋白の異化が亢進する。悪液質は、がん、結核、エイズ、関節リウマチ、慢性心不全、慢性腎不全、肝不全、慢性閉塞性肺疾患などで生じ、嚥下筋も含めた筋肉の喪失が特徴である。原疾患による筋萎縮には、多発性筋炎や筋萎縮性側索硬化症などがある。不適切な栄養管理である飢餓では、嚥下筋も含めた筋蛋白が異化する。
サルコペニアによる摂食・嚥下障害に対しては、これらの原因の有無を判断した上で、栄養管理と嚥下筋のレジスタンストレーニング(頭部挙上訓練、舌筋力強化訓練)を適切に行う。加齢と廃用が原因の場合、栄養障害を認めなければ主な治療は嚥下筋のレジスタンストレーニングである。栄養障害を合併している場合には、適切な栄養管理を併用する。疾患が原因の場合、原疾患の治療が最も重要である。高度侵襲下では、適切な栄養管理とリハを行っても摂食・嚥下機能の改善は難しい。悪液質の場合、n-3脂肪酸(エイコサペンタエン酸)の投与と廃用や飢餓の予防を同時に行う。飢餓が原因の場合、主な治療は栄養改善である。栄養改善なしにレジスタンストレーニングを行うとかえって悪化する。
例えば誤嚥性肺炎で絶食の場合、加齢、廃用、侵襲、飢餓によるサルコペニアを合併しやすい。この際、侵襲下では原疾患の治療、適切な栄養管理、維持的なリハでサルコペニアを最小限にとどめ、肺炎治癒後に栄養改善とレジスタンストレーニングでサルコペニアを改善させることが望ましい。

以下、要望演題の項目です。
1. NST加算の展望と問題点
2. NSTによってもたらされたもの -過去・現在と将来展望-
3. 地域一体型NST -栄養管理で結ぶ医療連携-
4. がん化学療法と栄養管理
5. 緩和ケアにおける栄養管理
6. 悪液質に対する最近の知見と代謝栄養管理
7. 嚥下障害の病態と栄養管理
8. 病院食改革
9. 栄養材の形状機能の追求
10. 腸管アクセスと栄養管理
11. PEGの功罪を検証する
12. 経静脈栄養ルートの選択と維持・管理
13. 周術期栄養管理の最近の動向
14. 集中治療における代謝制御と栄養管理
15. 炎症性腸疾患に対する栄養管理 最近の知見
16. 生体侵襲と抗酸化
17. 創傷治癒促進の栄養管理
18. 栄養療法とクリニカルパス
19. チーム医療の質向上を目指した新たな工夫
20. 栄養を軸としたチーム連携
21. 世界の中の日本 栄養管理の質と普及
22. 栄養教育の果たす役割
23. 小児領域の栄養管理 その問題点と対策
24. 慢性期医療施設の栄養管理
25. 在宅栄養管理の工夫

2010年6月28日月曜日

PT学会2010リハ栄養関連演題

今年のPT学会の中で、リハ栄養関連の発表抄録を2つ見つけましたので紹介します。詳細は下記のHPで抄録全文を参照してください。

①栄養摂取方法の違いは廃用症候群患者の移動能力の回復に影響する
http://cjpta.jp/45th/pdf/O1_145.pdf

②高齢者大腿骨近位部骨折患者の術後短期的日常生活動作改善要因の解析―栄養学的因子を含めた検討―
http://cjpta.jp/45th/pdf/P2_175.pdf

①は、経口摂取群と非経口摂取群の2群で廃用症候群患者を比較すると、前者のほうがNST介入終了時のアルブミン値が高く移動能力も高く死亡割合が少ないという結果です。

確かに経口摂取群のほうが予後は良好だろうと感じます。ただ、非経口摂取群が経口摂取できなかった理由として、重度の摂食・嚥下障害もしくは意識障害も含めた全身状態不良が背景にあるとすれば、これらが交絡因子になっている可能性があります。

②は、高齢者大腿骨近位部骨折患者で急性期病院退院までの短期間のADL改善には、術後3日間の食事摂取量、退院前3日間の食事摂取量とのみ相関関係が見られたという結果です。アルブミン値はデータ収集可能な範囲では有意な相関がなかったようです。

経口摂取単独であれば、少なくとも7割以上の経口摂取が筋力やADLには必要と思われます。ただ考察にもありますが後ろ向き研究で調査項目が不十分であり、今後、前向き研究で十分な調査項目で検討されることが期待されます。

来年のPT学会では、より多くのリハ栄養関連の発表があることを期待しています。

手を握ることで胃運動機能向上

昨日まで日本プライマリ・ケア連合学会に参加していましたが、その中で、「家族が患者の手を握る行為の有用性」という発表がありましたので、やや長いですが抄録を紹介します。

【背景】認知機能が低下している患者に対して、家族が無力感を感じていることは多い。その中で、家族が患者の手を握りながら寄り添う光景をみかけることがある。「手を握るしか何もしてあげられない」と語る家族は多い。そこで、家族が患者の手を握る行為が認知機能の低下した患者の自律神経機能に与える影響を客観的に評価することは、家族の自己効力感の向上につながると考えられた。一方、自律神経機能と消化管生理機能との関連性は古くから証明されている。
【目的】体外式超音波を用いて、家族が患者の手を握る行為による患者の胃運動機能の変化を評価すること。その結果の説明による家族の自己効力感の変化を評価すること。
【対象】対象は、胃廔による栄養を受けている認知機能の低下した患者13 例(78.1±11.8歳、意思疎通が全くできない寝たきり状態)。入院中、全身状態安定期、PEG施行後安定期、高度の食道裂孔ヘルニアを認めない症例に限定した。
【方法】家族が患者の手を握る行為下、非行為下で超音波による胃運動機能評価を行った。手順は、胃廔から栄養剤(300kcal/400ml)を200ml/hの速度で投与し、経時的に前底部横断面積や収縮回数を測定した。評価項目は、前底部運動能(3 分間:投与終了時~3分後の収縮回数と収縮率。収縮率:収縮期と弛緩期の前底部横断面積の変化率)、胃排出率(投与終了時:120 分後と180 分後・240分後との前底部横断面積の変化率)の2 項目とした。測定は1~3週間の間隔を空けて行い、行為下、非行為下の順番はエントリー順に交互に振り分けた。使用機器は日立 EUB-6000を用いた。また、その結果の説明の前後における、家族が患者の手を握る行為の意義の程度などをスケール評価を用いて比較検討した。①手を握る行為は、相手の心身にどの程度関与(良い方向に)していると思いますか?②手を握る行為は、貴方の心身にどの程度関与(良い方向に)していると思いますか?③手を握る行為は、相手やあなたにとって、どの程度意義のある行為だと思いますか?④今後、手を握る行為など相手への関わりを増やしていこうと思いますか?
【結果】家族が患者の手を握る行為下は非行為下と比較し、前底部運動能、胃排出能ともに有意に大きな値となった。その結果の説明にて、家族の自己効力感は高まった。一方、日常性を重視したために、手を握る行為の内容や時間の統一性は得られなかった。
【考察】家族が患者の手を握る行為は、2つの胃運動機能を高めたが、これは自律神経系を介した作用である。この結果を伝えることは、家族の自己効力感の向上につながると考えられた。

私は手を握ることが胃運動機能を向上させることをはじめて知りました。考えてみれば副交感神経系を亢進させれば胃運動機能は向上するので、リラックスさせればよいとは思うのですが。

そうするとリラックスできる相手(どんな相手かが重要ですね)に手を握ってもらうと、胃食道逆流の予防になる可能性もあるのかもしれませんね。そんな臨床研究は聞いたことがありませんが…。

2010年6月26日土曜日

プライマリ・ケア研究のフロントライン

今日は、第1回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会に参加して一般演題(昨日抄録をアップした内容です)を発表してきました。2つ前の演題から会場入りしたのですが、直前の発表が演者が来ていないということで、突然自分の発表の番になりました。心の準備ができていなかったので少しあせりましたが、無事発表できたと思います。

午後は、「プライマリ・ケア研究のフロントライン」というシンポジウムに参加しました。私はプライマリケア関連学会などで臨床研究やEBMのスキルを今まで学んできましたし、今回も学習になりました。これらのスキルは問題発見・解決能力として、医療人の一般教養と考えています。

シンポジウム概要:プライマリケア現場では,大学病院などの高次機能病院とは質的,量的に異なった問題が多く存在している.これはプライマリケア領域においてももちろん,疾病を診断し治療することは重要であるが,それ以外にも多くの役割を担っているためである.しかし,プライマリケア現場で臨床研究を行っていくことには多くのバリアが考えられる.そこで,プライマリケア現場で臨床研究の特徴,バリアを実際の経験を踏まえた演者に講演いただき,最後にそれをパネルディスカッションの形で議論したい.

企画・司会:松島雅人先生
講師:藤沼康樹先生、尾藤誠司先生、名郷直樹先生、横林賢一先生

自分がポイントだと思ったことだけ記載します。

・研究のネタとして、「質(医療の)、患者中心性、テクノロジー、研究、政策、教育」の6つが美味しい。経営・運営・マネジメントやFaculty Developmentも研究のネタになる。

・研究に必要なものは、アイデア、ノウハウ、研究計画、研究基盤、運営力の5つ。資金、リーダーシップ、まめなコミュニケーション、インセンティブ、事務局運営能力が重要。

・臨床研究とEBMは研究の両輪。どちらか一方のスキルを磨くと、もう一方のスキルも向上する。エビデンスを「つくり、つたえ、つかう」ことが重要。

・研究に必須なものは、情熱、研究費、胃薬、日ごろのコミュニケーション、菓子折り(利益相反に留意、研究費で購入してはいけない)。

・メーリングリスト、Skype、ツイッターなど無料のITツールを使いこなすことが有用。最新のITツールの活用方法自体が臨床研究になる。

 臨床研究デザインを学ぶ場は少ないながらもありますし、今後も増えていくとは思うのですが、その知識だけで一定の質の臨床研究を最後までやりきるのは困難だということを、改めて認識しました。

 実際に臨床研究のアウトプットを増やすためには、単に知識を学ぶ場を作るだけでなく、その後のフォローアップ、メンターも含めたサポート体制、情熱、研究費など数多くのものが必要です。日本プライマリ・ケア連合学会には、知識を学ぶ場だけでなく、臨床研究を最後までやりきるだけの場の提供を期待しています。

2010年6月25日金曜日

第1回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会

6月26日‐27日と第1回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会が開催されます。

http://www.primary-care.or.jp/primary2010/conference2010_index.htm

そこで、リハ栄養の一般演題として「低栄養状態が廃用症候群のリハビリテーションの帰結に与える影響」について発表してきます。

【目的】低栄養状態が廃用症候群のリハの帰結に与える影響を検討する。

【対象・方法】対象は2006年6月から2007年3月と2008年8月から10月に当院リハ科に併診があり、リハ科医師が廃用症候群と診断した入院患者223人。研究デザインは後向きコホート研究。低栄養状態は、併診時にBMI18.5未満、ヘモグロビン(Hb)10g/dl未満、アルブミン(Alb)3g/dl未満、総リンパ球数(TLC)1200未満のいずれかに該当する場合と定義した。リハの帰結は、併診時と退院時のADL自立度の変化で、改善もしくは不変・悪化に分類した。年齢、性別、入院から併診までの期間、併診時のBMI、Hb、Alb、TLC、小野寺の栄養学的予後指数(PNI:Alb×10+TLC×0.005)、Barthel Indexを評価し、これらとADLの変化との関連を検討した。

【結果】平均年齢67.5歳。男性136人、女性87人。入院から併診までの中央値17日(25%値11、75%値27)。202人(91%)に低栄養状態を認めた。BMI18.5未満は56人(25%)、Hb10g/dl未満は115人(52%)、Alb3g/dl未満は163人(73%)、TLC1200未満は198人中103人(52%)に認めた。PNIは平均32.9(±7.1)で、198人中122人(62%)が35未満であった。ADLの変化は改善135人(61%)、不変・悪化88人(39%)であった。年齢(p=0.18)、性別(p=0.11)、入院から併診までの期間(p=0.71)による差は認めなかった。低栄養状態の患者は、ADLの改善が有意に悪かった(低栄養:改善118人、不変・悪化84人、正常栄養:改善17人、不変・悪化4人、リスク比2.18、p=0.04)。Hb10g/dl未満(リスク比1.82、p=0.001)、TLC1200未満(リスク比1.46、p=0.03)、PNI35未満(リスク比1.64、p=0.01)の場合、ADLの改善が有意に悪かった。BMI18.5未満(p=0.78)、Alb3g/dl未満(p=0.08)による有意差は認めなかった。年齢、性別、Hb、TLCによるロジスティック回帰分析では、HbのみADLの変化と有意な関連を認めた(1g/dlあたりオッズ比2.3、p=0.005)。

【結論】廃用症候群の患者では低栄養状態を認めることが多い。中等度から重度の低栄養状態は廃用症候群のリハの帰結に影響を与える可能性がある。

広義の二次性サルコペニアのうち、活動に関連したサルコペニア単独よりも栄養に関連したサルコペニアを合併しているほうが、リハの帰結がやや悪いという解釈ができると思っています。

2010年6月24日木曜日

サルコペニアと関節リウマチでの筋力低下の比較

今日はサルコペニア(加齢に伴う狭義、原発性のもの)と関節リウマチ(広義でのサルコペニアに該当)での筋力低下の比較をした系統的レビュー論文を紹介します。

Beenakker,K.G.M.,etal. Patterns of muscle strength loss with age in the general population and patients with a chronic inflammatory state. Ageing Res. Rev.(2010), doi:10.1016/j.arr.2010.05.005

結果としては、健常者では加齢に伴い徐々に握力が低下します。 25歳と95歳で比較すると、男性の平均握力は45.5kgから23.2kgに、女性の平均握力は27.1kgから12.8kgに低下します。50歳以降で握力低下の速度が速くなり、1年あたり0.37kg低下します。

75歳時点で男性の平均握力は31.8(30.5;33.2)kg、女性の平均握力は19.1(17.9;20.3)kgです。サルコペニアの診断基準の目安が男性30kg、女性20kgですから、75~80歳以上になれば、半数はサルコペニアの可能性があるといえます。

一方、関節リウマチでは35歳から65歳の間で、握力の変化はほとんどありませんでした。この間、男性で平均20kg、女性で平均15kgです。ただし、罹病期間が長くなると握力は低下傾向にあります。

関節リウマチでの握力低下は、悪液質に伴う二次性サルコペニアの影響もありますが、手指の変形、こわばりによるものもあります。そのため、すべてが二次性サルコペニアによる握力低下とは言えませんので、留意が必要です。

ただ、原発性サルコペニアと二次性サルコペニアによる握力低下の違いを比較検討したという点では、意味のある論文だと考えます。

Abstract
BACKGROUND: There is growing recognition of the serious consequences of sarcopenia on the functionality and autonomy in old age. Recently, the age-related changes in several inflammatory mediators have been implicated in the pathogenesis of sarcopenia. The purposes of this systematic review were two-fold: (1) to describe the patterns of muscle strength loss with age in the general population, and (2) to quantify the loss of muscle strength in rheumatoid arthritis as representative for an underlying inflammatory state. Handgrip strength was used as a proxy for overall muscle strength.

RESULTS: Results from 114 studies (involving 90,520 subjects) and 71 studies (involving 10,529 subjects) were combined in a meta-analysis for the general and rheumatoid arthritis population respectively and standardized at an equal sex distribution. For the general population we showed that between the ages of 25 and 95 years mean handgrip strength declined from 45.5kg to 23.2kg for males and from 27.1kg to 12.8kg for females. We noted a steeper handgrip strength decline after 50 years of age (rate of 0.37kg/year). In the rheumatoid arthritis population handgrip strength did not change between the ages of 35 to 65 years. Rheumatoid arthritis disease duration was inversely associated with handgrip strength.

CONCLUSIONS: This meta-analysis shows distinct patterns of age-related decrease of handgrip strength in the general population. Handgrip strength is strongly associated with the presence and duration of an inflammatory state as rheumatoid arthritis. The putative link between age-related inflammation and sarcopenia mandates further study as it represents a potential target for intervention to maintain functional independence in old age.

飢餓の定義

飢餓とは、エネルギー摂取量がエネルギー消費量より少ない状態が続き、栄養不良となることです。栄養不良を飢餓によるもの、急性疾患・手術など侵襲によるもの、慢性疾患の悪液質によるものに分類する方法があります。

国際連合食糧農業機関(FAO)では、食事エネルギー摂取量が基礎エネルギー消費量の1.54倍に満たない人々を飢餓と定義しています。この定義では世界で約10億人が飢餓となるそうです。途上国における飢餓は切実な問題です。

ただ、日本の病院・施設でも飢餓を「食事エネルギー摂取量が基礎エネルギー消費量の1.54倍に満たない」と定義すると、飢餓の患者が少なくありません。どころか相当います。

例えば私は今、廃用症候群の入院患者で飢餓の有無を評価しています。基礎エネルギー消費量をHarris-Benedict式で計算して、基礎エネルギー消費量よりエネルギー摂取量が少ない場合を飢餓と判断すると、これでも4~5割の患者が飢餓となります。

もし基礎エネルギー消費量の1.54倍よりエネルギー摂取量が少ない場合を飢餓と判断すると、現在調査中のすべて(10割)の患者が飢餓となってしまいます。これは大変なことです。

実際、日本の高齢者ではHarris-Benedict式で計算した基礎エネルギー消費量は高めになりますし、入院患者では活動係数は1.2~1.5で十分でしょうから、リハ栄養で国際連合食糧農業機関の飢餓の定義をそのまま使用することには、やや無理があるかもしれません。

ただ、基礎エネルギー消費量よりエネルギー摂取量が少ない患者が4~5割いるということは確実に問題です。これらの患者については、飢餓と言って間違いないと私は思います。飢餓の状態では維持的なリハしか実施できませんので、適切な栄養管理が必要です。

リハ栄養における飢餓の定義として、

①Harris-Benedict式で計算した基礎エネルギー消費量>エネルギー摂取量

②Harris-Benedict式で計算した基礎エネルギー消費量×活動係数×ストレス係数>エネルギー摂取量

のどちらがよいでしょうか。②だと活動係数とストレス係数を主観的に決めますので、まずは①で判断してよいのではと感じていますが、いかがでしょうか。

第8回神奈川PDNセミナー

7月24日(土)に第8回神奈川PDNセミナー:あなたのハテナは私のハテナ。が開催されます。私が話す機会はありませんが参加予定です。皆様のご参加の程よろしくお願い申し上げます。

http://www.peg.or.jp/seminar/kaisai/kanagawa/100724.pdf

2010年7月24日(土) 14:00~18:30 (受付開始13:30~)
神奈川県立県民ホール6階大会議室

定員:200名(胃瘻にかかわるすべての職種)先着順。参加費:1000円

<第1部> 胃瘻の基礎講座 14:05~15:00
「胃瘻?どんなことを知っておいたら良いの?」
赤羽重樹先生(西神奈川ヘルスケアクリニック 院長)

<第2部> みんなのハテナにお答えします 15:10~17:40
1.「聞いてみたい、臨床現場での造設・交換」
吉田篤史先生(大船中央病院 消化器肝臓病センター)

2.「こんな時はどうしよう?
-PEG のスキントラブル&カテーテルトラブルとその対処法」
望月弘彦先生(クローバーホスピタル 消化器科)

3.「薬とカテーテル管理にまつわるエトセトラ」
長谷川 聰先生(株式会社 フレディ タカノ薬局 薬剤師)

4.「困っていませんか?栄養剤で」
中嶋としみ先生(北里大学病院 栄養部)

<第3部> あなたのハテナは私のハテナ~フロアからの質疑応答 17:50~18:25

申込:申込用紙(PDNのHPから入手してください)に必要事項をご記入の上、FAX にてお申し込み下さい。
NPO 法人PDN 事務局 (TEL:03-6228-3611 FAX:03-6228-3730)

2010年6月23日水曜日

リハ栄養の特集

まだ企画段階で詳細は決まっていないようですが、医歯薬出版の雑誌「臨床リハ」で今後、リハ栄養の特集が組まれることになりそうです。私も1つ原稿を執筆させていただくことになるかもしれません。

「臨床リハ」はリハ医向けの雑誌ですので、執筆陣も基本的にリハ医ということになりそうです。以前、2007年6月号で「在宅嚥下障害者に対する栄養ケア・マネジメント」という特集は組まれたことがありますが。

http://www.ishiyaku.co.jp/magazines/cr/CRBookDetail.aspx?BC=081606
→ちなみに私もこの特集で「苦労した栄養ケア症例(1)中心静脈栄養例」を執筆しています。内容のポイントに関しては上記のHPからアクセスできます。

オーバービュー 栄養ケア・マネジメントとは何か 川西秀徳 
 在宅嚥下障害者に対する栄養アセスメント 山東勤弥 
 在宅嚥下障害者の栄養ケアプランとpitfall 丸山道生 
苦労した栄養ケア症例 
 (1)中心静脈栄養例 若林秀隆 
 (2)経管栄養例 石井雅之,山中崇 
 (3)経口摂取・経管栄養併用例 金丸晶子 

また、PTジャーナルでも2007年6月号で「NSTと理学療法」という特集が組まれたことがあります。

http://medicalfinder.jp/ejournal/top-09150552-41-6.html?

栄養と栄養管理 (合田文則ほか)
低栄養状態患者と運動療法 (伊藤彰博ほか)
経腸栄養および胃瘻患者の生活と理学療法 (平賀よしみほか)
慢性心不全における栄養管理と運動療法の関わり (飯田有輝ほか)
NST活動と理学療法士 (原島宏明ほか)

しかし、リハ栄養の特集となると、私が知る限り初めてです。リハの世界では栄養はまだまだマイナーな存在ですが、少しずつリハ医やPT・OT・STに浸透する機会が増えていけばと期待しています。

2010年6月22日火曜日

高齢者への筋トレの効果:メタ分析論文

今日は、高齢者への筋トレの効果を見たメタ分析の論文を紹介します。

Peterson MD, Sen A, Gordon PM: Influence of Resistance Exercise on Lean Body Mass in Aging Adults: A Meta-Analysis. Med Sci Sports Exerc. 2010 Jun 11. [Epub ahead of print]

加齢に伴うサルコペニア(原発性サルコペニア)に最も有効な治療法は、レジスタンストレーニングです。それが効果的なことは今回のメタ分析でも明らかですが、高ボリュームの筋トレがより有効なこと、若年者への効果のほうがより高いことが結論として報告されています。

筋トレはサルコペニアの高齢者でも効果的と言われていますが、より若いうちから継続して行ったほうがより望ましいとは言えると思います。

Abstract
PURPOSE:: Sarcopenia plays a principal role in the pathogenesis of frailty and functional impairment that occurs with aging. There are few published accounts which examine the overall benefit of resistance exercise (RE) for lean body mass (LBM), while considering a continuum of dosage schemes and/or age ranges. Therefore the purpose of this meta-analysis was to determine the effects of RE on LBM in older men and women, while taking these factors into consideration. METHODS:: This study followed the Preferred Reporting Items for Systematic Reviews and Meta-Analyses recommendations. Randomized controlled trials and randomized or non-randomized studies among adults >/= 50 years, were included. Heterogeneity between studies was assessed using the Cochran Q and I statistics, and publication bias was evaluated through physical inspection of funnel plots as well as formal rank-correlation statistics. Mixed-effects meta-regression was incorporated to assess the relationship between RE dosage and changes in LBM. RESULTS:: Data from forty-nine studies, representing a total of 1328 participants were pooled using random-effect models. Results demonstrated a positive effect for lean body mass and there was no evidence of publication bias. The Cochran Q statistic for heterogeneity was 497.8, which was significant (p < 0.01). Likewise, I was equal to 84%, representing rejection of the null hypothesis of homogeneity. The weighted pooled estimate of mean lean body mass change was 1.1 kg (95% CI, 0.9 kg to 1.2 kg). Meta-regression revealed that higher volume interventions were associated (beta = 0.05, p < 0.01) with significantly greater increases in lean body mass, whereas older individuals experienced less increase (beta = -0.03, p = 0.01). CONCLUSION:: RE is effective for eliciting gains in lean body mass among aging adults, particularly with higher volume programs. Findings suggest that RE participation earlier in life may provide superior effectiveness.

2010年6月21日月曜日

機能訓練室にトロミ水分を

「PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養」では、「機能訓練室に栄養剤を」というコラムを記載しましたが、今日は「機能訓練室にトロミ水分を」というテーマで考えてみます。

機能訓練室では積極的な訓練内容を行っている方も少なくありませんので、中には訓練中にのどが渇き、水が欲しいと希望されることがあります。それ自体は生理的現象ですし、もっともな話です。

このような場合、嚥下障害が全くない方であれば、PT・OT・STは水道水を紙コップか何かで提供するかと思います。一方、重度の嚥下障害でまったく経口摂取ができない方であれば、無理だとお断りするか、可能な方であればうがいだけして吐き出してもらうかとなります。これらの場合、大きな問題はありません。

難しいのはとろみのない水では誤嚥する可能性が高いけれども、適切なとろみのついた水分であれば誤嚥する可能性がほとんどない嚥下障害患者の場合です。

本人の希望通りに水道水を提供して誤嚥させてしまうことには当然、問題があります。しかし、とろみのない水では誤嚥するからといって、機能訓練室で水分を提供しないまま訓練を続けることも、ベストとは思えません。

特に回復期リハ病棟では訓練時間が長いことが多いです。のどが渇いた状態で訓練を継続しても、よいパフォーマンスを期待することは難しいと考えます。のどの渇きばかりが気になって、早く病棟に帰りたいと思うのが心情でしょう。

そのため、機能訓練室でトロミ水分を摂取できることが、リハ栄養的には望ましいと考えます。これは栄養剤を機能訓練室で経口摂取する場合にもあてはまります。嚥下機能によっては栄養剤にとろみをつけることが当然、必要です。

方法としては2つあります。1つは病棟で本人の嚥下機能に見合った適切なとろみのついた水を、あらかじめ訓練前に作成しておいて、訓練時に本人が機能訓練室に持参する方法です。最近の増粘剤でしたら時間が経過しても粘度がそれほど変化しませんので、衛生面に気をつければ実現可能だと思います。

もう1つは機能訓練室で、本人に水分摂取の希望があった場合に、その場で水道水にとろみをつける方法です。この場合、本人にとって適切な粘度をPT・OT・STが理解していなければ、作成することはできません。

PT・OT・STにとっては前者のほうが負担が少ないので好ましいかもしれません。ただし、この場合でも病棟で適切なとろみのついた水を作成して機能訓練室に持ってきてもらうよう、本人や看護師に依頼するのは、PT・OT・STの仕事です。

これからもっと暑くなり脱水が心配な季節になりますので、機能訓練室で脱水を悪化させるようなことはないように訓練を行いたいです。

2010年6月17日木曜日

看護学雑誌2010年7月号

看護学雑誌2010年7月号(最新号)のp47-53にReportとして「横浜南部地域一体型NSTによる地域連携の成果と課題」という原稿が掲載されました。

今年2月のJSPENのシンポジウムで発表した内容をベースに執筆したものですが、一部リハ栄養のことも記載しています。

まだまだ試行錯誤中の横浜南部地域一体型NSTですが、施設の壁を超えるNSTの重要性に関しては十分認識しているつもりです。

看護学雑誌を入手できる方は、ぜひ読んでいただけるとありがたいです。よろしくお願い申し上げます。

PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養第2刷発行

また書籍の宣伝でなんですが、6月15日付で「PT・OT・STのためのリハビリテーション栄養」の第2刷が発行になりました。どうもありがとうございます。

第1刷と大きな違いはありませんが、

・30ページのMNAの図をMNA-Short Formに変更したこと
http://www.mna-elderly.com/forms/mini/mna_mini_japanese.pdf

・52ページのコラム「NST専門療法士」で、PT・OT・ST、歯科衛生士もNST専門療法士の対象資格になったので目指してほしいという内容に変更したこと

・54ページのNST・嚥下連絡票を神奈川摂食・嚥下リハ研究会のVer1に変更したこと
http://www.peg.or.jp/network/kanagawa/index.html

・一番後ろの私の略歴で、このブログを紹介していること

などの違いがあります。今後とも何卒よろしくお願い申し上げます。

2010年6月16日水曜日

第21回日本在宅医療学会シンポジウム報告


少し前ですが、6月12日に第21回日本在宅医療学会のシンポジウム「病院から在宅へのシームレスな栄養管理・地域栄養ケア」に参加してきました。

司会:望月弘彦先生 (クローバーホスピタル 消化器科)

S2-1 摂食・嚥下障害患者のシームレスな栄養管理・地域栄養ケア
若林 秀隆
横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科

S2-2 栄養療法を学び、実践し、地域に伝えるための取り組み
中村 悦子先生
市立輪島病院 看護部

S2-3 NST専門療法士の次ステップ
胃ろう管理実技セミナーでのインストラクターを通じて薬剤師が地域に伝えたいこと
荒木 玲子先生
国立病院機構西群馬病院 薬剤科

S2-4 PEG地域連携パスを用いたシームレスな栄養管理を目指して
西山 順博先生1)、伊藤 明彦先生2)、小山 茂樹先生2)、佐々木 雅也先生3)
1)医療法人 西山医院、2)社会医療法人誠光会 草津総合病院、3)滋賀医科大学医学部付属病院 栄養治療部

S2-5 病院から在宅へのシームレスな栄養管理
工藤 美香先生
特定・特別医療法人新都市医療研究会「君津」会 南大和病院 栄養科

知り合いが多いシンポジウムでしたので気楽といえば気楽でした。

在宅における摂食・嚥下障害患者のリハ栄養管理の重要性を伝えたいと思い発表してきました。私は在宅リハに関わっていますが、リハよりも栄養が大切と感じるケースもあります。

ただ、実際となると課題は多く手つかずのところも多く、改善すべき点がたくさんあることを改めて認識しました。いつまでも「在宅でのリハ栄養管理は今後の課題です」と言い続けるわけにもいきませんし、具体的なアクションプランが必要だと感じています。それがなかなか難しいのですが…。

ちなみに写真は望月先生が座長席から撮影してくださったものです。

2010年6月15日火曜日

創傷治癒と悪液質

もう1つ、創傷治癒と悪液質に関する論文を紹介します。

Michael FY Ng. Cachexia – an intrinsic factor in wound healing.
Int Wound J 2010; 7:107–113

私が知る限り、創傷治癒と低栄養に関する論文は私が以前執筆したものを含めて多数ありますが、創傷治癒と悪液質の関連を考察した論文はこれがはじめてだと思います。

単なるエネルギー摂取量不足である飢餓と悪液質は別の概念ですので、創傷治癒においても当然、別の概念として考えなければいけません。例えばTNF-αは悪液質で増加することが多いサイトカインですが、創傷治癒にも悪影響を認めます。褥瘡と栄養の関連に関心がある方には、かなり面白い論文だと思います。

抄録だけは面白さが十分伝わらないと思いましたので、論文のKeyPointも英語のままですが掲載しました。単なる低栄養の栄養改善ではなく、悪液質対策(EPA・エイコサペンタエン酸投与など)が悪液質患者の創傷治癒に有利に働く可能性があります。

褥瘡治療のためにEPAを投与するという時代も近いのかもしれません。

ABSTRACT
Systemic diseases are intrinsic factors that alter and may impair the wound healing process. Cachexia is a manifestation of systemic, often chronic, diseases and is characterised by systemic inflammation, appetite suppression and skeletal muscle wasting. Anorexia in cachectic states is commonly associated with malnutrition. Malnutrition may cause impaired healing. Therefore, it would follow that cachexia could influence wound healing because of reduced food intake. However, the lack of response to measures to reverse cachexia, such as supported nutrition, would suggest that a direct causal link between anorexia and weight loss in cachexia is too simple a model. To date, there is no published literature that examines the role of cachexia in human wound healing specifically. This article aims to demonstrate that cachexia is an intrinsic factor in wound healing. The role of the common mediators in wound healing and in cachexia are compared – specifically inflammation, including the nitric oxide synthase pathway, collagen deposition and reepithelialisation.

Key Points
• cachexia is a manifestation of systemic, often chronic, diseases such as neoplasms, rheumatoid arthritis, chronic heart failure and chronic obstructive pulmonary disease and is characterised by systemic inflammation, appetite suppression, and skeletal muscle wasting

• malnutrition may cause impaired healing. Therefore, it would follow that cachexia could influence wound healing because of reduced food intake

• the premise of this essay is that cachexia is an extrinsic factor that affects wound healing via anorexia and undernutrition, and cachexia is an intrinsic factor because its mediators are similar to those essential in wound healing

• this article will compare the role of the common mediators in wound healing and in cachexia – specifically inflammation, including the nitric oxide synthase (NOS) pathway, collagen deposition and reepithelialisation

• it would seem that high levels of circulating cytokines, such as IL-6 and TNFα, and activation of the NOS pathway cause impaired wound healing and cachexia

• experimental evidence suggests TNFα suppresses collagen production and keratinocyte mobility

• the effect on wound healing and cachexia in humans receiving anti-TNFα therapy is subject to debate because of the relationship between inflammation, infection and TNFα levels

• in rodents, and perhaps in humans, activin and myostatin contribute to weight loss and muscle wasting in cachexia

• activin, in particular, may cause overgranulation and altered epithelial migration

• a consensus of the definition of cachexia should be sought

• there is currently no successful method of countering cachexia and its effects onwound healing because of the complexity of the process and lack of research evidence

• by understanding how cachexia affects wound healing in humans, it may lead to effective therapy that will improve the quality of life of those affected by cachexia

身体活動改善が悪液質治療のアウトカム

今日は、身体活動改善が、がん患者の悪液質治療における治療効果を測定するアウトカムの1つになるという論文を紹介します。

Mantovani G, Madeddu C, Serpe R.
Improvement of physical activity as an alternative objective variable to measure treatment effects of anticachexia therapy in cancer patients.
Curr Opin Support Palliat Care. 2010 Jun 4.

栄養状態改善のアウトカムを何でみるかは1つの課題です。狭義のアウトカムは栄養指標の改善で、例えば体重など身体計測値の改善、検査値の改善、経口摂取量の増加などがあげられます。

ただ、広義かつ患者中心のものを考えれば、リハやリハ栄養と同様にADLやQOLの改善が重要なアウトカムになります。この論文では身体活動改善を指標にしていますので、広い意味でADLをアウトカムにするとよいということになります。

実際、栄養評価に使用されるSGAやMNA-SFにも身体活動のことが含まれていますので、身体活動をアウトカム指標として使用しても、まったく問題はないように思います。

私はリハから栄養に近づいていってリハ栄養を考えましたが、このような論文を見ると栄養からリハに近づいてきている動きもあるように感じます。リハ栄養の主要アウトカムは、やはりADLやQOLになるかと思います。

Abstract
PURPOSE OF REVIEW: The purpose of this review is to provide an update of physical activity improvement as an alternative objective variable to measure treatment effects of anticachexia therapy in cancer patients. The assessment of physical activity level as an outcome measure for cachexia studies is attractive as it offers a patient-centered outcome concerned with functional status and independence.

RECENT FINDINGS: We present and review the most relevant recent clinical studies regarding the significance of physical activity in the context of the assessment of anticachexia treatment effects. Moreover, we have highlighted, on the basis of our recent phase III clinical trial on anticachexia treatment, the added value of correlating physical activity with the most common variables of cancer-related anorexia/cachexia syndrome.

SUMMARY: We believe that presently, and even more so in the near future, the consistent application of objective, patient-centered endpoints in cachexia trials, such as physical activity monitoring, may provide an additional significant and useful tool for the evaluation of outcomes of medical interventions in cancer cachexia.

2010年6月14日月曜日

新訳:科学的管理法

今日は、フレデリックW.テイラー著、有賀裕子訳「新訳:科学的管理法」ダイヤモンド社を紹介します。

http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=978-4-478-00983-3

もともと1911年に執筆された書籍で、ほぼ100年前のものになります。それが今回新訳として出版されたのは、マネジメント領域の歴史的名著に他ならないからです。

ドラッカーはテイラーのことをとても高く評価していますし、ドラッカーの書籍を読んでいると、テイラーのことが何回も出てきます。私がテイラーを知ったのも、もちろんドラッカーを読んだからです。

「テイラーこそ、人類の歴史上でおそらく初めて労働作業を当然のものとして見過ごさず、研究の対象として光を当てた人物である。(中略)テイラーは、労働の生産性を押し上げ、それによって労働者たちにまずますの暮らしをさせたいと願ったわけだ。」

第1章にマネジメントの目的として、以下のような記載があります。

「マネジメントの目的は、雇用主に「限りない繁栄」をもたらし、併せて、働き手に「最大限の豊かさ」を届けることであるべきだ。」

100年前にこのようなことをテイラーが主張されていたとは実に感動的です。言い方を変えれば100年前から「雇用主も働き手も、相手と強調するよりもむしろ敵対しようとする空気が強い」ということです。

残念ながら100年たった今でも、雇用主は働き手をなるべく少ない賃金で最大限働かせようという風潮があります。これは会社だけでなく病院でも同様です。マネジメントが昔より進化した分、かえって働き手は雇用主に上手に搾取されているかもしれません。

医療人=知識労働者として生産性をなるべく高めることは当然ですが、それはFaculty Developmentで言えば、自らも組織も利する(win-win)結果を得るためです。決してwin-loseの結果を得るためではありません。そんなことを改めて実感できる書籍です。

この書籍では肉体労働者の生産性をいかに高めるかについて、詳細に記載されています。仕事に知識を適応したといえます。一方、知識労働者の生産性をいかに高めるかについては、ドラッカーが下記の6項目を紹介しています。これらを実際に行うことが、知識労働者には大切です。

・なされるべきことを考える。
・働く者自身に生産性向上の責任を持たせる。すなわち自分をマネジメントさせる。
・継続してイノベーションを行わせる。
・継続して学ばせ、かつ継続して人に教えさせる。
・知識労働の生産性は量より質であることを知る。
・知識労働者をコストではなく資本として扱う。知識労働者が組織のために働くことを欲する。

ちなみに、ドラッカーのマネジメントを十分読み込んで理解してから、この書籍を読むことをおすすめします。順番としてはドラッカーが先だと感じています。

目次
まえがき――いまなぜ、テイラーを読み直すべきなのか

序章 本書の狙い

「仕組み」の重要性
三つの狙い

第一章 科学的管理法とは何か

マネジメントの目的
労働者を蝕む最大の悪習
怠業の原因――その一
怠業の原因――その二
 「楽をしようとする」性向
 労働者の実態
 欺かれる雇用主
 出来高制がはらむ危険性
怠業の原因――その三
マネジャーが果たすべき責務
科学的管理法がもたらすもの

第二章 科学的管理法の原則

1 「科学的管理法」以前における最善の手法
手段はクチコミ
自主性とインセンティブ

2 科学的管理法のエッセンス
マネジャーの四つの新しい任務
マネジャーと働き手の役割分担
作業プランを作成し、実行する

3 銑鉄の運搬作業における取り組み
専門性がなく、誰でもできる仕事
適材を探し出す
訓練や手助けが不可欠

4 私の職歴――マネジメント改革に傾注した背景
機械工場の現場で働く
部下たちとの対立
マネジメント改革を決意
作業と疲労度に関する実験
一日の労働に占める作業時間
作業者の人選の重要性

5 シャベルすくい作業の研究
シャベルすくい作業における科学
作業者を「個」として扱う
データが示す導入効果
賃金アップと働く意欲の関係
単独作業のメリット

6 レンガ積みにおける検証
ギルブレスによる調査
作業工程の短縮に成功
標準手法の導入と協力体制
科学的管理法の成果

7 ベアリング用ボールの検品に対する考察
一日に一〇時間半の労働
「パーソナル係数」による適性判断
完璧な検品のための工夫
奏効したさまざまな施策
効果的な報奨の与え方
労使双方に大きなメリット

8 高度な金属切削業務における探究
高度な作業への適用
科学が経験則を超える
現場から全社への波及
二六年にわたる金属切削の実験
一二に及ぶ独立変数
研究から導き出された法則
作業者の経験則の限界
手法ではなく、哲学の刷新

9 科学的管理法の実践
科学を解き明かす
法則を導くための五つのステップ
標準ツールの製作
課題と動機づけの関係
重要な二要素――課題とボーナス
プランニング部門の役割
複数の職長による指導
外科医と工場の労働者
科学的管理法のメカニズムを支える要素
性急な導入が残した教訓
導入に際しての注意点
消費者の存在
科学的管理法がもたらす恩恵
新しい時代の到来
人々の幸福に貢献
【追記】

原注

訳者あとがき

2010年6月12日土曜日

京滋摂食・嚥下を考える会記念講演会

今度、7月31日に(土)に京滋摂食・嚥下を考える会記念講演会でお話させていただくことになりました。参加費無料です。嚥下の話がメインになりますが、リハ栄養の話も少ししようと考えています。下記HPで案内状と申し込み用紙を入手できます。

http://www.peg.or.jp/news/information/kyoto/100731.pdf

日時:平成22年7月31日13:30~17:00
場所:リーガロイヤルホテル京都2階「松紅葉の間」
定員:300名
参加費:無料

開会の辞 芙蓉会南草津病院栄養科長 高嶋典子先生

13:30~14:00
情報提供1 「嚥下食ピラミッドに基づいたアイソカルジェリーシリーズ製品のご紹介」 ネスレニュートリション㈱

情報提供2 「適切なとろみ剤の使用とスルーパートナーを使ったミキサー固形食調理実習講習会の取り組みご紹介」 キッセイ薬品工業㈱ヘルスケア事業部

14:00~15:10 司会 愛生会山科病院消化器外科部長 荒金英樹先生
講演1 「摂食・嚥下リハビリテーションと地域連携」
横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科助教 若林秀隆先生

休憩(20分)

15:30~15:50
情報提供3 「スチームコンベクションオーブンを使った介護食調理のご提案」 大阪ガス㈱京滋エネルギー営業部

15:50~17:00 司会 誠光会草津総合病院栄養科長 小澤惠子先生
講演2 「おいしい嚥下食を考える-嚥下食ピラミッドの取り組み-」
浜松大学健康プロデュース学部健康栄養学科教授 金谷節子先生

閉会の辞 愛生会山科病院消化器外科部長 荒金英樹先生

参加方法ですが、上記HPで参加申込書を入手して、FAXで申し込んでいただくことが必要です。京都周辺の皆様にはぜひ参加していただければと思います。よろしくお願い申し上げます。

第25回日本静脈経腸栄養学会海外招聘講演レポート:未来の臨床栄養1

第25回日本静脈経腸栄養学会の海外招聘講演「未来の臨床栄養1」のレポートを以下のHPで確認できます。

http://www.nestlenutrition.jp/NR/rdonlyres/244D187B-8CC3-4CB0-8CED-5060EBD87839/0/vison_pdf_01.pdf

Friedrich-Alexander-UniversityのCornel C. Sieber先生の講演で、私はJSPENの時に聞きましたが、英語の講演だったためか参加者は多くなかったと記憶しています。

「SarcopeniaとFrailty」の項目のところは、特に読む価値があると感じています。「歩行速度が1秒1m当たり0.8まで低下すると、BMIとは関係なく死亡率が高くなる」という報告があり、そのためにサルコペニアの診断基準に歩行速度(0.8m/s以下)が入っているのだと思います。

「MNA―SFはSarcopeniaに対しても反応性を有し、治療効果の期待できる患者を抽出し、さらに栄養状態を明確に判定できる」そうです。その点でもMNA―SFの使用が推奨されるようです。

「栄養療法―蛋白とビタミンD摂取および運動の重要性」の項目には、「筋肉量と筋力を維持し、筋肉減少を回避するためにビタミンDが重要であるというデータがある」という記載があります。ただ、副作用の問題などがありますので、ビタミンDが不足していないサルコペニアの人にまでビタミンDの内服を進める必要はないかと私は感じています。不足していれば補給すべきですが。

MNA―SFの宣伝の要素も少なからずありますが、ヨーロッパでの◉高齢者における栄養管理の現状を知る上では、一読の価値はあると感じています。

2010年6月11日金曜日

きょうの健康:サルコペニア

今日気づいたので遅いのですが昨日、NHKテレビの「きょうの健康」でサルコペニアの特集をしていました。

http://www.nhk.or.jp/kenko/kenkotoday/archive/2010/0610/

再放送が6月17日にありますので、興味のある方はぜひチェックしてください。

ここでのサルコペニアの解説は、「加齢とともに筋肉の量が減少し機能が低下する現象」とされていますので、原発性サルコペニアになります。活動、疾患、栄養による二次性サルコペニアは含まれていません。そのため、治療方法としてはレジスタンストレーニングが紹介されています。

筋トレを始める前にとして、「現在治療中の病気がある」「心臓病や糖尿病の疑いがある」「血圧が高い」「関節痛がある」場合は、運動を始める前にまず担当医に相談してくださいとあります。

疾患に関してはこれで十分ですが、欲をいえば低栄養状態の場合もこの中に含んでいただけると、リハ栄養の立場からはなおよかったかと感じます。重度の低栄養や不適切な栄養管理で、紹介されている筋トレを行っても逆効果になりますので…。

といっても一般人向けの番組でサルコペニアがテーマに取り上げられたことは素晴らしいことだと思います。サルコペニアの概念がより多くの人に伝わればと思います。

2010年6月10日木曜日

サルコペニアとインシュリン抵抗性

私がいつも拝見させていただいている「内科開業医のお勉強日記」に、「骨格筋減少は肥満有無に関わらず独立したインスリン抵抗性と関連する」というブログが掲載されていましたので、紹介させていただきます。

http://intmed.exblog.jp/10781668/

もとの論文は、下記の通りです。

Srikanthan P, Hevener AL, Karlamangla AS (2010) Sarcopenia Exacerbates Obesity-Associated Insulin Resistance and Dysglycemia: Findings from the National Health and Nutrition Examination Survey III. PLoS ONE 5(5): e10805. doi:10.1371/journal.pone.0010805

下記HPで全文読むことができます。

http://www.plosone.org/article/info%3Adoi%2F10.1371%2Fjournal.pone.0010805

結論としては、サルコペニア(ここでは加齢に伴う骨格筋減少という狭義の原発性サルコペニアです)は非肥満者、肥満者ともインシュリン抵抗性と関連するという結果です。

ただ、横断研究なので、因果関係に関しては何ともいえません。骨格筋から分泌されるmyokineが少なくなるから炎症やインシュリン抵抗性が悪化するのかもしれませんが。

少なくともSarcopenic Obesityに関しては特に要注意です。糖尿病の運動療法として、有酸素運動だけではなくレジスタンストレーニングの重要性が高まりつつありますが、それとも関連してくる内容です。

Abstract
Background
Sarcopenia often co-exists with obesity, and may have additive effects on insulin resistance. Sarcopenic obese individuals could be at increased risk for type 2 diabetes. We performed a study to determine whether sarcopenia is associated with impairment in insulin sensitivity and glucose homeostasis in obese and non-obese individuals.

Methodology
We performed a cross-sectional analysis of National Health and Nutrition Examination Survey III data utilizing subjects of 20 years or older, non-pregnant (N = 14,528). Sarcopenia was identified from bioelectrical impedance measurement of muscle mass. Obesity was identified from body mass index. Outcomes were homeostasis model assessment of insulin resistance (HOMA IR), glycosylated hemoglobin level (HbA1C), and prevalence of pre-diabetes (6.0≤ HbA1C<6.5 and not on medication) and type 2 diabetes. Covariates in multiple regression were age, educational level, ethnicity and sex.

Principal Findings
Sarcopenia was associated with insulin resistance in non-obese (HOMA IR ratio 1.39, 95% confidence interval (CI) 1.26 to 1.52) and obese individuals (HOMA-IR ratio 1.16, 95% CI 1.12 to 1.18). Sarcopenia was associated with dysglycemia in obese individuals (HbA1C ratio 1.021, 95% CI 1.011 to 1.043) but not in non-obese individuals. Associations were stronger in those under 60 years of age. We acknowledge that the cross-sectional study design limits our ability to draw causal inferences.

Conclusions
Sarcopenia, independent of obesity, is associated with adverse glucose metabolism, and the association is strongest in individuals under 60 years of age, which suggests that low muscle mass may be an early predictor of diabetes susceptibility. Given the increasing prevalence of obesity, further research is urgently needed to develop interventions to prevent sarcopenic obesity and its metabolic consequences.

2010年6月9日水曜日

JSPEN「NST専門療法士」認定教育施設における臨床実地修練修了の認定

JSPENのHPに「NST専門療法士」認定教育施設における臨床実地修練修了の認定に関する内容が掲載されています。

http://jspen.jp/h22_rinsyoujicchikunren_syuryouno_nintei.html

個人的には40時間の研修を受けることがゴールや目的ではなく、NST専門療法士の取得を当面の目標と考えてほしいです。

以下、上記HPからの引用です。

平成22年4月の診療報酬の改訂による「NST加算」における、厚生労働省の通達A233-2、第19-2栄養サポートチーム加算1.施設基準(3) ア 「40時間以上の栄養管理に係わる所定の研修」についての修了証交付の件につき、本学会としての対応を以下のようにお知らせいたします。

1.「専門療法士」認定証を以って、上記研修修了証に代えうる。
2.認定試験不合格者については研修のみの修了認定証の交付は行わない。
なお、提出された受験申請書類「臨床実地修練修了証明証」についても返却しない。
3.非学会員が「認定教育施設」において「所定の研修」を修了した場合、その修了認定は学会の関知するところではない。
4.「所定の研修」のみの修了証の交付は、各認定教育施設の責任で交付する。
認定規則第20条により、実地修練修了書は各施設の指導医が交付することとなっております。

また、今回の改訂にあたり認定試験不合格者に対して学会が何等かの認定を行うことは、「専門療法士」資格認定者と同等の職権、職能を与えることとなりますので容認できるものではありません。さらに、非学会員に対して本学会が何等かの認定行為を行うことはあり得ません。
以上については、5月22日に本学会が主催しましたシンポジウムにおいて確認、了解済みです。 研修修了証の記載内容については、各地方の事情もございますので詳細については管轄各厚生局に御確認頂きますよう御願い申し上げます。

リハビリテーションNST

リハビリテーションNST(Rehabilitation Nutrition Support Team、RNST)は、リハ栄養と同様、新しい概念です。単純にいえばリハ栄養を実践しているチームが、リハNSTです。

しかし、単にNSTにPT・OT・STやリハ科専門医が参加したものではありません。PT・OT・ST・リハ科専門医がNSTに参加しても、リハに関する情報交換はなく、チームで栄養ケアマネジメントのみを行っているのであれば、それはNSTです。

一方、PT・OT・ST・リハ科専門医や看護師、社会福祉士で行うリハカンファレンスに単に管理栄養士が参加したものでもありません。管理栄養士が参加しても、栄養状態を考慮したリハ栄養管理の話し合いにならなければ、それはリハ栄養カンファレンスではなく、リハカンファレンスです。

リハ栄養とは、栄養状態も含めてICF(国際生活機能分類)で評価を行ったうえで、適切な予後予測のもとでリハ栄養ケアプランを実践することです。多職種で構成されるチームでリハ栄養管理を行っていれば、それはリハNSTです。実際にはリハNSTでリハ栄養管理を行っている病院・施設は増加傾向にあると思います。

主な参加職種は、医師、歯科医師、PT・OT・ST、歯科衛生士、管理栄養士、看護師、薬剤師、臨床検査技師、社会福祉士です。これらすべての職種が参加していれば理想的なリハNSTと言えますが、実際にはかなり難しいでしょう。

リハチームもNSTもチーム医療ですが、両方を見てきた経験では、やや違いがあります。どちらも医師が中心となることが多いですが、医師がとっつきにくいのはリハチームです。医師は看護師、薬剤師、管理栄養士、臨床検査技師とのディスカッションには比較的慣れていますが、PT・OT・STとのディスカッションにはあまり慣れていません。

そのため、おまかせリハになりやすいです。一方、栄養管理に関しては、おまかせ栄養管理となることは比較的少ないです。ただ、多くの医師はリハも栄養管理も卒前・卒後教育であまり学習していません。学習機会が少なかったというのが実情です。

その分、PT・OT・STがNSTに参画してリハNSTとして活動すると、より成果が高まることを期待できます。もしくはリハ科専門医がリハ栄養の視点を持ってNSTに参画するとよいです。ただ、リハ科専門医は2010年6月現在日本リハ医学会ホームページによると、1732人しかいません。

https://member.jarm.or.jp/specialist.php

この中で栄養に関心のあるリハ科専門医は一部しかいませんので、リハ科専門医にリハNSTへの参画を期待はしますが、実際には難しいかもしれません。

リハNSTのチーム形態は多職種連携型(interdisciplinary team)か超職種型(transdisciplinary team)が望ましいです。すべての職種に求められる役割としては、下記のようなものが考えられます。

 ICF(国際生活機能分類)での評価
 リハ栄養スクリーニング
 リハ栄養アセスメント
 ベッドサイドで可能な摂食・嚥下機能評価
 機能改善を目標とした機能訓練の可否の判断

PT・OT・ST以外の職種には、ICFの理解が大きな課題です。ICFを知らなければ、障害やリハの概念を理解しているとは言えず、リハ栄養の実践は困難です。ICFを知ることで、リハ栄養では栄養アセスメント以外に大切な評価項目があることを理解できます。

基本的な栄養アセスメントはすべての職種が誰でも行えるようになるべきです。栄養ケアプランの立案・実施は誰でもというわけにはいきませんが、評価もできなければ栄養管理のしようがありません。

そして、機能改善を目標とした機能訓練の可否の判断をできることが、リハ栄養では大切です。それによってリハ栄養ケアプランも変わってきます。リハと栄養の両方をみてゴール設定やリハ栄養プランの立案・実施を行えることが望ましいです。

2010年6月7日月曜日

リハ栄養の講演情報

今後1ヶ月間程度先までのリハ栄養の講演情報を紹介します。お近くの方はぜひご参加願えればと思います。ご検討よろしくお願いいたします。

6月17日(木)県西部浜松医療センター勉強会 19時30分~
「リハビリテーション栄養と地域連携NST」
http://www.hmedc.or.jp/medical/lecturemeeting.php
(おそらく当日参加可能です)

6月19日(土)クリニコ臨床栄養セミナーin山形 14時~
「摂食・嚥下障害のリハと栄養管理の実践」
http://www.peg.or.jp/news/information/yamagata/100619.pdf
(当日参加可能です)

7月6日(火)東名厚木病院 摂食・嚥下勉強会 18時~
「摂食・嚥下リハビリテーションの考え方と進め方(多職種協働によるチーム医療)」
http://www.tomei.or.jp/hospital/kango/training.html
(上記HPに掲載されているメールで申し込みが必要です。また、リハ栄養の話も多少しますが、FDの話をメインにすると思います)

7月11日(日)第3回栄養ネットワーク湘南セミナー 13時30分~茅ヶ崎市コミュニティホール
「リハビリテーション栄養」
http://www.peg.or.jp/news/information/kanagawa/100711.pdf
(上記HPで申し込み必要です)

このほかに、HPには掲載されていませんが、7月9日(金)17時30分から弘前の健生病院の勉強会でもリハ栄養の話をしてきます。

リハ栄養の講演に関しては、日程調整がつけばなるべく受けますので、講演を依頼してみたいという方がいましたら、若林までご連絡をいただければと思います。よろしくお願い申し上げます。

2010年6月6日日曜日

サルコペニアと嚥下障害の論文

今日は、Denise Ney,at al: Swallowing: Impact, Strategies and Interventions. Nutr Clin Pract. 2009 ; 24(3): 395–413. doi:10.1177/0884533609332005.の論文を紹介します。知人のSTから入手しました。全文入手も可能です。

高齢者の嚥下障害に関するレビューの論文ですが、サルコペニアと嚥下障害に関する記載も下記のようにあります。

Sarcopenia
Structurally, sarcopenia is associated with age-related reductions in muscle mass and crosssectional area, a reduction in the number or size of muscle fibers, and a transformation or selective loss of specific muscle fiber types (18). Sarcopenia is inherently associated with diminished strength. There are reports in the literature of sarcopenia-like changes in muscles of the upper aerodigestive tract (19–21) and the observed age-related changes in strength and function (5,6) suggest pervasive changes in lingual muscle composition (22–24). Ongoing work is generating novel interventions effective for diminishing sarcopenia and increasing strength. Although most of the initial work in this area has been performed in the limb musculature, emerging work in cranial-innervated muscles is quite relevant to swallowing in older individuals and will be discussed later in more detail.

一部訳しますとサルコペニア様の変化が上気道消化管に認められる。舌の筋肉組成にも加齢による変化を認める。頭蓋の神経支配を受ける筋肉のサルコペニアは高齢者では嚥下と関連している。

サルコペニアの研究は主に四肢の筋肉に関して行われてきましたが、最近は舌も含めて嚥下に関わる筋肉に関して行われつつあります。

個人的意見でしかありませんが、私は嚥下障害の原因疾患の第2位が広義のサルコペニア(加齢に伴う嚥下筋力低下だけでなく、廃用による嚥下障害、疾患による嚥下障害:侵襲、悪液質、筋疾患、低栄養による嚥下障害も含めて)と考えています。1位はもちろん脳卒中です。

明らかな麻痺を認めない嚥下障害のかなりの部分を、サルコペニアによる嚥下障害で説明できて、リハ栄養的な治療計画を立てられるのではないかと感じています。もちろん心因性、頸椎由来、器質的な嚥下障害も少なからずありますので、麻痺がない場合にすべてをサルコペニアによる嚥下障害と言うわけにはいきませんが…。

また、ここには引用していませんが、嚥下障害とサルコペニアは高齢者の院内感染の予測因子であるという論文もあります。サルコペニアによる嚥下障害の研究はまだあまり行われていませんが、高齢社会の日本では、その重要性は今後確実に増していくと考えています。

Abstract
The risk for disordered oropharyngeal swallowing (dysphagia) increases with age. Loss of swallowing function can have devastating health implications including dehydration, malnutrition, and pneumonia, as well as reduced quality of life. Age-related changes place older adults at risk for dysphagia for two major reasons: One is that natural, healthy aging takes its toll on head and neck anatomy and physiologic and neural mechanisms underpinning swallowing function. This progression of change contributes to alterations in the swallowing in healthy older adults and is termed presbyphagia, naturally diminishing functional reserve. Second, disease prevalence increases with age and dysphagia is a co-morbidity of many age-related diseases and/or their treatments. Sensory changes, medication, sarcopenia and age-related diseases are discussed herein. Relatively recent findings that health complications are associated with dysphagia are presented. Nutrient requirements, fluid intake and nutritional assessment for older adults are reviewed relative to their relations to dysphagia. Dysphagia screening and the pros and cons of tube feeding as a solution are discussed. Optimal intervention strategies for elders with dysphagia ranging from compensatory interventions to more rigorous exercise approaches are presented. Compelling evidence of improved functional swallowing and eating outcomes resulting from active rehabilitation focusing on increasing strength of head and neck musculature is provided.
In summary, while oropharyngeal dysphagia may be life-threatening, so are some of the traditional alternatives, particularly for frail, elderly patients. While the state of the evidence calls for more research, this review indicates the behavioral, dietary and environmental modifications emerging in this past decade are compassionate, promising and in many cases preferred alternatives to the always present option of tube feeding.

チームで実践 高齢者の栄養ケア・マネジメント

今日は、江頭文江著「チームで実践 高齢者の栄養ケア・マネジメント」中央法規を紹介します。

http://www.chuohoki.jp/ebooks/commodity_param/shc/0/cmc/3292

昨日、県央地区PDNセミナーでリハ栄養の講演をさせていただきました。その時に江頭さんからこの書籍をいただきました。どうもありがとうございます。結論から言いますと、多くの管理栄養士・栄養士に一読してほしい書籍です。

臨床栄養やNSTに関する書籍はそれこそたくさん出版されています。その中でも特におすすめという書籍もありますが、基本的には臨床栄養を書籍で学ぶには困らない環境にあります。

しかし栄養ケア・マネジメントを書籍で学ぶとなると、数多くありそうで実は少ないのが現状です。スクリーニング、アセスメント、ケアプラン立案、実施、モニタリングの一連の流れが説明されているだけでは、マネジメントの解説としては不十分ですし、マネジメントの概念を理解できるとはいえません。

「マネジメントとは何か」を理解しないまま、スクリーニング、アセスメント、ケアプラン立案、実施、モニタリングの一連の流れを実施している管理栄養士・栄養士が少なくないと私は感じています。そんな人たちに特におすすめです。

私が知る限りでは管理栄養士が執筆した書籍で、これだけマネジメント全般に関してわかりやすく解説したものはないと思います。マネジメントだけでなく、私がFaculty Developmentということでいつも話をしている、問題発見・解決能力、コミュニケーション能力、生涯学習能力に関連した内容にも触れられています。

私がFDとして講演で話していることの大半はすでにこの書籍にもっとわかりやすい形で執筆されているではないか、というのが正直な印象です。Faculty Developmentの基本を学べる要素もあります。

マネジメントそのものの書籍と言えばやはりドラッカー(はじめて読むドラッカーシリーズ3部作)を最初におすすめしますが、ドラッカーは難しいのでとっつきにくいかもしれません。そんな人には「もしドラ」と「チームで実践 高齢者の栄養ケア・マネジメント」をおすすめします。

目次
序 章◆「食」を通したチームケアへの挑戦

第1章◆なぜうまくいかない?栄養ケア・マネジメント
   ・食事ケアに関する現状
   ・栄養ケア・マネジメント導入で見えてきた課題
   ・課題の整理

第2章◆こう考えれば、栄養ケア・マネジメントがうまくいく
   ・栄養ケア・マネジメントを正しく理解する
   ・個別スキルの磨き方
   ・連携スキルの磨き方

第3章◆実践!栄養ケア・マネジメントQ&A
   ・業務を行ううえで知っておきたいQ&A
   ・栄養・ケアマネジメントの展開事例

資 料◆栄養マネジメント加算関連の法令

2010年6月5日土曜日

JSPEN:症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針

もう1つ、JSPENのHPに、「症例報告を含む医学論文及び学会研究会発表における患者プライバシー保護に関する指針」にJSPENが賛同していることが掲載されています。

http://jeff.jp/JJSPEN-syourei-shishin.html

以下、指針を引用掲載しますが、今後のJSPEN(他の学会・研究会でも基本的に同様です)での発表ではこの指針に従うことが必要です。

なお、個人が特定化されないような症例報告でも、インフォームドコンセントと倫理審査委員会の承認は得たほうがよいと私は考えます。このあたりは各病院・施設によって対応が異なりますが。以下、引用です。

医療を実施するに際して、患者のプライバシー保護は医療者に求められる重要な責務である。一方、医学研究において症例報告は医学・医療の進歩に貢献してきており、国民の健康、福祉の向上に重要な役割を果たしている。医学論文あるいは学会・研究会において発表される症例報告では、特定の患者の疾患や治療内容に関する情報が記載されることが多い。その際、プライバシー保護に配慮し、患者が特定されないよう留意しなければならない。
以下は外科関連学会協議会において採択された、症例報告を含む医学論文・学会研究会における学術発表においての患者プライバシー保護に関する指針である。

1) 患者個人の特定可能な氏名、入院番号、イニシャルまたは「呼び名」は記載しない。
2) 患者の住所は記載しない。但し、疾患の発生場所が病態等に関与する場合は区域までに限定して記載することを可とする(神奈川県、横浜市など)。
3) 日付は、臨床経過を知る上で必要となることが多いので、個人が特定できないと判断される場合は年月までを記載してよい。
4) 他の情報と診療科名を照合することにより患者が特定され得る場合、診療科名は記載しない。
5) 既に他院などで診断・治療を受けている場合、その施設名ならびに所在地を記載しない。但し、救急医療などで搬送元の記載が不可欠の場合はこの限りではない。
6) 顔写真を提示する際には目を隠す。眼疾患の場合は、顔全体が分からないよう眼球のみ拡大写真とする。
7) 症例を特定できる生検、剖検、画像情報に含まれる番号などは削除する。
8) 以上の配慮をしても個人が特定化される可能性のある場合は、発表に関する同意を患者自身(または遺族か代理人、小児では保護者)から得るか、倫理委員会の承認を得る。
9) 遺伝性疾患やヒトゲノム・遺伝子解析を伴う症例報告では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省及び経済産業省)(平成13年3月29日、平成16年12月28日全部改正、平成17年6月29日一部改正、平成20年12月1日一部改正)による規程を遵守する。

JSPEN:医学研究及び研究発表における倫理的問題に関する見解及び勧告

JSPENのHPに「医学研究及び研究発表における倫理的問題に関する見解及び勧告」が掲載されています。

http://jeff.jp/JJSPEN-kenkai-kankoku.html.html

JSPEN(その他の学会・研究会でも同様ですが)での発表で必ず考慮しなければいけないことですので、全文引用します。

基本的にすべての臨床研究(症例報告含め)でインフォームドコンセント、匿名化(連結可能など)、倫理審査委員会の3点セットは必須だと考えたほうがよいです。研究倫理は徐々に厳しくなっている印象ですが、それだけ大切な概念ということになります。以下、引用です。

学会員各位
近年、新しい医学研究領域の発展により、研究・医療及び医学教育の従事者はそれぞれの立場で必要に応じた倫理的対応が迫られています。日本静脈経腸栄養学会理事会では、本学会における今後の投稿論文や学術集会での医学研究発表における倫理的問題に関して下記のごとく見解を示し、生命倫理に関する問題について広く会員の理解を深め、注意を喚起することに致しました。すべての医学研究においては、研究自体の倫理性は言うに及ばず、患者さんの権利に関しても十分に配慮されるべきであります。

本学会会員の皆様におかれましては、特にヒトを対象とした医学研究を行う場合には、患者さんのプライバシーの保護やインフォームドコンセントなどに関する倫理的問題に十分配慮されますようお願い致します。

医学研究発表における倫理的問題に関しては、以下のいずれかを満たすものとする。
A.ヒトを対象とした研究:
1.ヒトゲノム・遺伝子研究では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」による規定を遵守したもの。
(文部科学省、厚生労働省及び経済産業省)
(平成16年12月28日全部改正、平成17年6月29日一部改正、平成20年12月1日一部改正)
2.上記以外の研究で各施設の倫理審査委員会の承認が必要な場合、その承認を得たもの。
3.倫理審査委員会の承認を必要としないが、ヘルシンキ宣言(2008年大幅修正)の精神を遵守したもの。
(但し、第15条、第25条、第29条の条文を除く)

B.動物を対象とした研究:
動物実験に関する審査委員会の承認を得たもの。

C.ヒト・動物以外の研究:
広い意味での生命倫理について配慮を要する。

D.研究倫理と不正行為
総合的な研究倫理を理解し、不正行為などが起こらないように十分留意する。

[解説] ここでは医学研究を、ヒトを対象とした研究(個人を特定できるヒト由来の材料及び個人を特定できるデータの研究を含む)とヒト以外を対象とした研究に分けます。また、ヒトを対象とした研究では「ヒトゲノム・遺伝子研究」と「これ以外の研究」とに分けます。

A.ヒトを対象とした研究:
1.ヒトゲノム・遺伝子研究では「ヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省及び経済産業省)(平成16年12月28日全部改正、平成17年6月29日一部改正、平成20年12月1日一部改)
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/40_126.pdf
)による規定があり、これを熟読し内容を理解した上で遵守する必要があります。この場合、各施設での倫理審査委員会の承認が必要です。なお、現時点における過渡期的問題として、本指針が示される以前に終了した研究については、上記指針で示されている「細則1(本指針施行前の研究に関する細則)本指針施行前に既に着手され、現在実施中のヒトゲノム・遣伝子解析研究に対しては適用しないが、可能な限り本指針に沿って適正に実施することが望まれる」に従って下さい。

2.「これ以外の研究」についても「臨床研究に関する倫理指針」(厚生労働省) (平成16年12月28日全部改正、平成20年7月31日一部改正)
http://www.mhlw.go.jp/general/seido/kousei/i-kenkyu/rinsyo/dl/shishin.pdf
)に沿って、原則として各施設倫理審査委員会の承認が求められます(2.として提示しました)。また疫学研究に関しては「疫学研究に関する倫理指針」(文部科学省、厚生労働省)
(平成19年8月16日全部改正、平成20年12月1日一部改正)
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/37_139.pdf
) による規定があり、これを熟読し内容を理解した上で遵守する必要があります。「人口統計に関する研究」やインフォームドコンセントを得て治療を目的に行った症例の「症例検討(症例報告も含む)」などでは、倫理審査委員会の審査を必要としない場合もありますが*、この場合も世界医師会ヘルシンキ宣言(2008年1O月大幅修正。日本医師会ホームページ参照)
(http://www.med.or.jp/wma/helsinki08_j.html
)(第15条、第25条、第29条の倫理審査委貝会への実験計画書の提出を義務づけた条文以外)の精神に十分配慮したものであることが求められます(3.として提示しました)。なお、症例報告に関しては「症例報告に関する患者プライバシー保護に関する指針」(外科関連学会協議会)を遵守して下さい。
*: 症例検討(症例の集計による研究発表)や症例報告などは、一般に実地医療の結果報告であり、ヘルシンキ宣言が対象としている‘medical research involving human subject’には含まれないと考えます。

B.動物を対象とした研究:
1.ヒト以外に動物などを対象とした医学研究の場合においても、各施設における審査委員会の承認が必要であり、「動物実験の適正な実施に向けたガイドライン」(日本学術会議2006年6月1日、
http://www.scj.go.jp/ja/info/ kohyo/data_20_5.html
)を遵守する必要があります。

C.ヒト・動物以外の研究:
1.医工学領域や動物以外の生物に関する研究領域では、倫理的問題を考慮する必要がないものがありますが、広い意味で生命倫理について(化学兵器製造の問題、地球環境問題などにも)十分配慮することが求められます。

D.研究倫理と不正行為
科学者の規範の基礎である、研究活動における人、社会、自然に対する影響、安全性などの評価を包含した総合的な研究倫理を理解し、研究の遂行及び成果の発表においては、不正行為として捏造(Fabrication:存在しないデータの作成)、改ざん(Falsification:データの変造、偽造)、盗用(Plagiarism:他人のアイデアやデータや研究成果を適切な引用なしで使用)のみならず、不適切なオーサーシップ、重複発表、引用の不備・不正、研究過程における安全の不適切な管理、実験材料の誤った処理・管理、情報管理の誤りなどが起こらないように十分留意する。
平成22年2月25日
日本静脈経腸栄養学会

2010年6月4日金曜日

人勢塾―ポジティブ心理学が人と組織を鍛える

今日は、金井壽宏編・著「人勢塾―ポジティブ心理学が人と組織を鍛える」小学館を紹介します。

http://www.shogakukan.co.jp/books/detail/_isbn_9784093878630

人勢塾とはポジティブ心理学を応用・実践し、人と組織を元気にするための研究会のことで、主に企業の人事担当者を対象にした勉強会です。ただ、組織を元気づけるという意味で医療人にも参考になる内容だと思います。

医療界は構造的になかなか厳しいですし、NSTは稼動していてもうまくいっていない病院が少なくないですし、病院や医療スタッフに腹が立つ時もあるでしょうし、医療人はネガティブになりやすい環境で仕事をしていると感じています。本当は多くのありがとうのことばをいただける、得難い環境ではあるのですが…。

ポジティブ心理学と言ってもネガティブな面にも目を向けて、ポジティブ対ネガティブの比が3対1くらいが丁度よいそうです。あまりポジティブに偏りすぎても、それはそれでやや問題があるようです。

「感謝日誌法」という方法が紹介されています。毎日その日に生じた出来事のうち感謝すべきことを5つ書くと、次の日に前向きな気持ちになれるそうです。感謝の気持ちは内省してもよいし、人に伝えてもよいですが、自分だけでなくまわりも組織も明るくさせます。

あと、以下の質問に高い評価をする社員は生産性の高い職場に多く、低い評価をする社員は生産性の低い職場に多いそうです。これらは「さあ、才能(じぶん)に目覚めよう―あなたの5つの強みを見出し、活かす」という書籍からの引用です。皆様はいかがでしょうか。

1.仕事上で自分が何をなすべきか、要求されていることがわかっているか。
2.自分の仕事を適切に遂行するために必要な材料や道具はそろっているか。
3.最高の仕事ができるような機会に毎日恵まれているか。
4.この一週間の間に仕事の成果を認められたり、褒められたりしたことはあるか。
5.上司や同僚は自分を一人の人間として認めて接してくれているか。
6.仕事上で自分の成長を後押ししてくれている人はいるか。
7.仕事上で自分の意見は尊重されているか。
8.企業のミッションと照らし合わせて自分自身の仕事は重要だと感じられるか。
9.同僚は質の高い仕事をしているか。
10.職場にだれよりも親しい友人はいるか。
11.この半年の間に、自分の進歩について誰かと話し合ったことがあるか。
12.この一年の間に、職場で学習し、成長する機会に恵まれたか。

いずれにしても仕事をするのであれば、辛くやるよりも楽しくやりたいものです。ただ、楽しさが3、辛さが1くらいのバランスがお勧めです。逆に辛さが3、楽しさが1ではなかなか大変ですが。

目次
序章 人勢塾への道―ポジティブ心理学を組織・人事に実践的に応用するために
第1章 ポジティブ心理学
第2章 「感謝」が社内を変えていく
第3章 「強み」を生かした組織づくり
第4章 「フロー経験」を知る
第5章 ピーク経験と自己実現
第6章 HRから組織を変える
第7章 逆境を乗り越える力
第8章 その後の人勢塾
巻末付録 「人勢塾」事前シラバス抜粋

2010年6月3日木曜日

昇進者の心得

今日は、DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー編集部:編訳「昇進者の心得―新任マネジャーの将来を左右する重要課題」ダイヤモンド社を紹介します。

http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=978-4-478-00890-4

多くの書籍はいかに昇進するかに焦点を当てています。昇進した後いかにあるべきかについて書かれた書籍は少ないと思います。私は昇進者とは言えない職位ですが、組織ではリーダー的な仕事をさせていただくことがありますので、参考になる部分がありました。

ただ、この書籍の前に、ドラッカーの以下の言葉が名言です。昇進者はまずはこの言葉を肝に銘じておくべきでしょう。

「10年、15年にわたって有能だった人が、なぜ急に無能になるのか。私が見てきた限り、原因は、それらのほとんどにおいて、昇進した人が、前の任務で成功したこと、昇進をもたらしてくれたことを新しい任務においても行い続けることにある。その挙句、無能な仕事しか出来なくなる。

 正確には、無能になるのではなく、単に間違ったことを行うために無能な仕事しか出来なくなるのである。新しい任務を行ううえで必要なことは、卓越した知識と才能ではない。それは、新しい任務が要求するもの、新しい挑戦、仕事、課題において致命的に重要なものへの集中である。」

 私がこの書籍で最も参考になったのは、「第8章なぜ地位は人を堕落させるのか」です。トップでありつづけるための日常習慣として、以下の項目が紹介されています。

・普通の生活を心がける
・自分の短所に光を当てる
・「観測気球」をあげる(まわりの現実を調べる作業をおしまない)
・小さなことにくよくよ悩む
・内省する時間を増やす

 要は謙虚であれということなのでしょうが、偉くなるとそれがなかなか難しいのだろうと思います。

 また、みずからのリーダーシップを「監査」してみるということで、以下の6つの質問が用意されています。これらの質問で転落の危機に落ちていないかどうか自己診断できます。

・穴を塞いだり、綻びを繕ったりと、目の前の問題の処理に追い回されていないか。
・耳の痛い社内の意見にどのように対応しているか。
・必要な時に必ず「王様は裸だ」と進言してくれる人物はいるか。
・尊大な幻想を抱いていないか。
・自分の利益を求めるあまり、強欲な人間に変わっていないか。
・一息入れて、何か違うことをするか、ゆっくり休んでみてはどうか。

 私にも耳の痛い質問がありました。リーダーでもそうでなくても、これらの質問で自己診断することは有用かと感じます。

目次
まえがき──「昇進後の落とし穴」の存在

第1章 新任マネジャーはなぜつまずいてしまうのか
 ハーバード・ビジネススクール 教授 リンダ・A・ヒル

管理職になってみて気づくこと
マネジャーの心得が身につかない理由
新米マネジャーが抱きがちな五つの誤解
上司が新米マネジャーの不安を理解する必要性
【章末】もう一つの教訓:権限はみずから獲得するもの

第2章 新任リーダーが犯しやすいミス
 INSEAD 教授 マイケル・D・ワトキンス

昇進や異動は新たなる大きな試練
どのような状況にあるか評価する
組織変革の基本原則
マネジャーのみならず社員全員の自己変革を促す
【章末】STARSモデルの実践法
【章末】転職組の管理職がつまずく理由

第3章 功を急ぐと、なぜ失敗するのか
 コーポレート・エグゼクティブ・ボード プラクティス・マネジャー
 マーク・E・バン・ビューレン
 コーポレート・エグゼクティブ・ボード マネージング・ディレクター
 トッド・サファーストーン

成功するリーダーと失敗するリーダーの違い
クイック・ウィンの落とし穴
クイック・ウィンの逆説を打ち破る
集合的クイック・ウィンの重要性
【章末】クイック・ウィンを実現する
【章末】集合的クイック・ウィンの威力
【章末】新任マネジャーの成功を支援する

第4章 頼れる部下と困った部下
 ハーバード大学 ジョン・F・ケネディ行政大学院 講師 バーバラ・ケラーマン

フォロワーシップ研究は遅れている
リーダーとフォロワーの関係の変化
フォロワーの類型化
フォロワーをあらためて類型化する
賢いフォロワー、困ったフォロワー
【章末】フォロワーの分類例

第5章 リーダーが部下に翻弄される時
 ジョージ・ワシントン大学 教授 リン・R・オファーマン

ケネディが迷走してしまった理由
多数派の意見を疑う
おだてに乗るべからず
批判に耳を傾けられるか
部下の言葉よりも組織の価値観で判断する
策略家や不満分子に注意する
【章末】敵の懐に入る

第6章 だれを信頼すべきか
 ケンブリッジ・インターナショナル・グループ 創業者兼CEO
 サジュ=ニコル・A・ジョニ

信頼について多くが誤解している
信頼の種類とレベルを認識する
「第三の意見」に耳を傾ける
早い段階で「キッチン・キャビネット」を組成する
職位が高くなるほど構造的信頼は得がたい

第7章 完全なるリーダーはいらない
 マサチューセッツ工科大学 スローン・スクール・オブ・マネジメント 教授
 デボラ・アンコーナ
 マサチューセッツ工科大学 スローン・スクール・オブ・マネジメント 教授
 トーマス・W・マローン
 マサチューセッツ工科大学 スローン・スクール・オブ・マネジメント 教授
 ワンダ・J・オーリコフスキー
 マサチューセッツ工科大学 スローン・スクール・オブ・マネジメント 上級講師
 ピーター・M・センゲ

「分散型リーダーシップ」とは
「状況認識」に取り組む
「人間関係」を築く
「ビジョン」を描く
「創意工夫」を促す
四つの能力のバランスを図る
【章末】「状況認識」に取り組む
【章末】「人間関係」を築く
【章末】「ビジョン」を描く
【章末】「創意工夫」を促す

第8章 なぜ地位は人を堕落させるのか
 スタンフォード大学 経営大学院 教授 ロデリック・M・クラマー

なぜ権力を手にすると堕落し始めるのか
勝者はすべてを欲する
「ルールなんて凡人のためにあるものさ」
組織の頂上には滑りやすい急坂がつき物
ほめ言葉が「裸の王様」をつくる
トップであり続けるための日常習慣
前途洋々ゆえに前途多難であることに気づかない
【章末】失脚の研究
【章末】みずからのリーダーシップを「監査」してみる

強皮症と栄養障害

強皮症と栄養障害に関とうするエビデンスはあまりなかったのですが、最近2つの論文が発表されました。強皮症では栄養障害はよく認めるという当然の結果ですが…。

強皮症は膠原病で慢性的な炎症を認めますので悪液質になりやすいだけでなく、嚥下障害や消化管機能障害を認めますので飢餓にもなりやすいので、栄養管理が重要です。強皮症に限らず、すべての膠原病で悪液質を認めることがありますし、機能障害を認める疾患も多いので、リハ栄養では重要な疾患です。

膠原病と栄養に関するエビデンスは関節リウマチが圧倒的に多いのですが、その他の膠原病疾患(SLE、皮膚筋炎など)でも栄養管理が大切であることが広まればと思います。

もっとも関節リウマチでの栄養管理の重要性さえ、日本ではまだあまり広がっていないのが現状です…。関節リウマチではるいそうや悪液質が多いということだけでも、リハ栄養で伝えていかないといけませんね。

①Lijana Krause, et al: Nutritional status as marker for disease activity and severity predicting mortality in patients with systemic sclerosis. Ann Rheum Dis published online May 28, 2010. doi: 10.1136/ard.2009.123273

124人中69人(55.7%)の強皮症患者が低栄養。50%がエネルギー必要量以下の摂取量。19.8%が基礎エネルギー消費量以下の摂取量。栄養指標は生命予後と関連。

ABSTRACT
Objective: To assess and analyse nutritional status in patients with systemic sclerosis (SSc) and identify possible associations with clinical symptoms and its prognostic value.
Methods: Body mass index (BMI) and parameters of bioelectrical impedance analysis (BIA) were assessed in 124 patients with SSc and 295 healthy donors and matched for sex, age and BMI for comparisons. In patients with SSc, BMI and BIA values were compared with clinical symptoms in a cross-sectional study. In a prospective open analysis, survival and changes in the
nutritional status and energy uptake induced by nutritional treatment were evaluated.
Results: Patients with SSc had reduced phase angle (PhA) values, body cell mass (BCM), percentages of cells, increased extracellular mass (ECM) and ECM/BCM values compared with healthy donors. Malnutrition was best
refl ected by the PhA values. Of the patients with SSc, 69 (55.7%) had malnutrition that was associated with severe disease and activity. As assessed by multivariate analysis, low predicted forced vital capacity and high N-terminal(NT)-proBNP values discriminated best between good and bad nutritional status. Among different clinical parameters, low PhA values were the best predictors for SSc-related mortality. BMI values were not
related to disease symptoms or mortality. Fifty per centof patients with SSc had a lower energy uptake related to their energy requirement, 19.8% related to their basal metabolism. Nutritional treatment improved the patients’nutritional status.
Conclusions: In patients with SSc, malnutrition is common and not identifi ed by BMI. BIA parameters reflect disease severity and provide best predictors for patient survival. Therefore, an assessment of nutritional status should be performed in patients with SSc.

②Baron M, et al: Malnutrition is common in systemic sclerosis: results from the Canadian scleroderma research group database. J Rheumatol. 2009 Dec;36(12):2737-43.

malnutrition universal screening tool(MUST)で栄養スクリーニング。
586人中18%の患者で低栄養のハイリスク群。すべての強皮症患者で栄養スクリーニングが行われるべき。(私は栄養アセスメントまでしっかり行うべきだと思っていますが)

Abstract
OBJECTIVE: Systemic sclerosis (SSc) is a multisystem disease associated with significant morbidity and increased mortality. Little is known about nutritional status in SSc. We investigated the prevalence and demographic and clinical correlates of nutritional status in a large cohort of patients with SSc.
METHODS: This was a cross-sectional multicenter study of patients (n = 586) from the Canadian Scleroderma Research Group Registry. Patients were assessed with detailed clinical histories, medical examinations, and self-administered questionnaires. The primary outcome was risk for malnutrition using the "malnutrition universal screening tool" (MUST). Multiple logistic regression was used to assess the relationship between selected demographic and clinical variables and MUST categories.
RESULTS: Of the 586 patients in the study, MUST scores revealed that almost 18% were at high risk for malnutrition. The significant correlates of high malnutrition risk included the number of gastrointestinal (GI) complaints, disease duration, diffuse disease, physician global assessment of disease severity, hemoglobin, oral aperture, abdominal distension on physical examination, and physician-assessed possible malabsorption. Among 14 GI symptoms, only poor appetite and lack of a history of abdominal swelling and bloating predict MUST. These factors accounted for 24% of the variance in MUST scores.
CONCLUSION: The risk for malnutrition in SSc is moderate and is associated with shorter disease duration, markers of GI involvement, and disease severity. Patients with SSc should be screened for malnutrition, and potential underlying causes assessed and treated when possible.

2010年6月2日水曜日

断絶の時代

今日は、ピーター・F・ドラッカー著、上田惇生翻訳「ドラッカー名著集7 断絶の時代」、ダイヤモンド社、2007を紹介します。

http://book.diamond.co.jp/cgi-bin/d3olp114cg?isbn=978-4-478-00057-1

断絶の時代はもともと1969年に執筆された書籍であるが、私が生まれる前に書かれたものとは思えないほど、今読んでも通じる内容である。目次にあるように起業家の時代、グローバル化の時代、多元化の時代(組織社会)、知識の時代、まさに現代がこれらの時代である。

その中でも「最も重要なこととして、知識の性格が変わる。すでに知識が、中心的な資本、費用、資源となった。知識が、労働と仕事、学ぶこと、教えること、知識自らの本質とその使い方を変えた。」とあります。

今でこそ知識は成果につながらなければ知識とはいえないことは明らかですが、40年以上前にこのような指摘があったのは本当に驚きです。日本の教育界(文部科学省)がドラッカーの考え方を学校教育に取り入れていれば、すべての日本人が学校を卒業した後も継続学習の習慣を身に着けていたはずなのに残念です。

今でも取り入れているとはいえませんし、むしろ継続学習の習慣をあえて身につけさせない愚民化政策に力を入れているようにさえ感じます。医療人には継続学習、生涯学習能力が必須ですので、過去の学校教育は忘れて自己学習に取り組むのがよいと思います。

まえがきのおわりには以下のような記載があります。
「本書は、定量的ならざるもの、質的なもの、構造的なもの、そして認識、意味、価値、機会、優先順位を見ていく。(中略)「明日のために今日どう取り組むか」を問う。」

ドラッカーが優れた質的研究者であることに、私はしばらく気づきませんでした。近年は質的研究にも日があたるようになってきていますが、40年前に質的研究に取り組んでいる人はごく少数でした。

現在でも量的研究>質的研究と考えている人が多数派です。私はドラッカーから質的研究の大切さを学びました。量的研究より本質をつかんだ質的研究のほうが格段に説得力があることも、ドラッカーで知りました。リハ栄養も量的研究でエビデンスを蓄積することは大切ですが、リハ栄養という概念は質的な考え方でなければ作りだすことはできません。

今の時代や社会を知ることは、知識労働者として世の中で成果を上げるために大切です。そのためにもご一読をお勧めします。ただ、「もしドラ」とは異なり、易しい書籍ではありませんので、繰り返し読むことが必要です。

目次
第1部 企業家の時代

第1章 継続の時代の終わり
経済は変わらなかった
いよいよ断絶の時代に入った

第2章 新産業の誕生
近代産業の成熟化
次なる産業
知識が基盤となる

第3章 方法論としての企業家精神
再びの企業家精神
技術のダイナミクス
技術戦略の必要性
市場のダイナミクス
イノベーションのための組織

第4章 経済政策の転換
人と資金の移動の自由
グローバル経済の位置づけ
新産業におけるリーダーシップ

第2部 グローバル化の時代

第5章 経済のグローバル化
グローバル経済の出現
ニーズのみのグローバル化
通貨の必要性
グローバル企業の役割
グローバル経済はグローバル企業を必要とする

第6章 途上国の貧困
人種間の格差
閉ざされた発展への道
資金と人材
社会と文化の基盤
経済発展に伴う危険

第7章 経済学の無効
経済学の無能ぶり
利益、技術、知識への理解
グローバル経済、マクロ経済、ミクロ経済
新しい経済学

第3部 組織社会の時代

第8章 多元化した社会
組織社会の出現
新種の多元社会
組織に関わる理論の必要

第9章 多元社会の理論
組織の役割とは
目的に関わる二つの決定
組織のマネジメント
組織の社会的責任とは
社会のニーズを機会とする
組織の正統性

第10章 政府の病い
政府への幻滅
統治不能
政府が不得手とすること
政府活動の再民間化
企業は事業をやめられる
活力ある政府

第11章 組織社会に生きる
意思決定の責任
自由の守りとしての組織
離脱の自由
オンブズマンの役割
善意による越権
機会としての組織

第4部 知識の時代

第12章 知識経済への移行
知識が生産要素
知識の適用の歴史
知識は人生を変える
知識労働の登場
学校教育の延長

第13章 仕事の変化
知識労働の動機づけ
第二の人生
六五歳では遅い
未熟練労働者の問題
アメリカのマイノリティ問題

第14章 教育革命の必然
一般高等教育のルーツ
知識の裏づけをもつ技能
知覚と感性
学校教育と継続教育
経験の重要性
青年期の長期化
必然の教育革命
教育方法の陳腐化
学ぶことと教えること
教えることと監督すること
学校の恥

第15章 問われる知識
知識の意味合いの変化
知識の社会的意味
頭脳流出の問題
知識の探究の優先順位
知識そのものへの疑問
知識ある者の責任
知識の未来

2010年6月1日火曜日

1st Abbott International Conference for Cancer Nutrition Therapy

1st Abbott International Conference for Cancer Nutrition Therapyという会議の記事が、下記のHPに掲載されています。

http://www.vyzivapacientov.sk/documents/ProSure_Newsletter.pdf

アボットさんの会議なので、プロシュア(EPAを含む栄養剤)の有効性、エビデンスを示す方向に行くのですが、紹介する価値はあると感じました。また、会議の様子の写真を見る限りかなりの参加者で、アボットさんの力を改めて感じます。

ここでは悪液質の診断基準と段階分けの部分を紹介します。以前紹介した論文(Muscaritoli M, et al: Consensus definition of sarcopenia, cachexia and pre-cachexia: Joint document elaborated by Special Interest Groups (SIG) “cachexia-anorexia in chronic wasting diseases” and “nutrition in geriatrics”. Clinical Nutrition (2010), doi:10.1016/j.clnu.2009.12.004) とは少し異なります。訳ではありませんが、コメントを入れていきます。

Professor Fearon began the conference by defining cancer cachexia using an evidence-based mathematical model based on patients with advanced pancreatic cancer.
→あくまで膵癌患者をベースにしたモデルです。他にも悪液質になる疾患はいろいろありますが…。

Three indices are included in the definition: weight loss > or = to 10%, <1500> 10 mg/L.1 He went on to state that cancer cachexia is a multifactorial syndrome that cannot be fully reversed by conventional nutritional support.
→診断基準を、①体重減少10%以上、②食事摂取量1500kcal以下、③CRP1.0mg/dl以上の3つとしています。②は食欲不振と同義に近いと個人的には感じています。

Cancer cachexia has been described as progressing along a continuum of 3 phases of increasing severity before resulting in death.
→悪液質を3つの時期に分類しています。3つに分けるというのは、以前紹介したのと同じです。

– The first phase is described as precachexia where weight loss may be ≤ 5% and some metabolic and endocrine changes may be occurring.
→前悪液質は体重減少5%以下程度。

– The second phase is described as cachexia with weight loss ≥ 5% often
with reduced food intake and systemic inflammation.
→悪液質は体重減少5%以上、食事摂取量低下、全身性炎症を認めることが多い。

– The third phase is described as refractory cachexia where there is severe muscle wasting, low performance scores, immune compromise, and expected survival of < 3 months.
→難治性悪液質は著明な筋萎縮、身体機能低下、免疫機能低下を認め、生命予後は3カ月未満。

以前紹介した論文と多少の違いはありますが、悪液質の診断には体重減少、食事摂取量(食欲)低下、CRP陽性が重要で、早期診断・治療の方向に向かっていることは間違いないと感じます。

NSTで栄養障害の患者を回診した時に、飢餓と悪液質(前悪液質を含めて)のいずれかか両方かを鑑別して、それにあわせて治療方針を変えるようになるとよいと思います。

COPDへのBCAA投与の効果

COPD(慢性閉塞性肺疾患)に対するBCAA(分岐鎖アミノ酸)投与の効果をみた最近の論文を2つ紹介します。いずれもイタリアの論文です。

対象者は少ないのですが、どちらの論文もランダム化比較試験で、BCAA投与群で体重の有意な増加を認めています(①は12週間のBCAA投与で12ヶ月後で6kg、②は12週間のBCAA投与で12週後で3.8kg)。

これだけ見るとCOPDの患者にはBCAA製剤を使用したほうがよい気になりますが、個人的な印象では体重増加の効果が大きすぎるように感じます。RCTではありますが、エビデンスの質の高い論文とは言いづらい気がします。

COPDに対する栄養療法はなかなか効果を出せなくて、最近になってようやく有効という論文が出始めている段階です。

なかなか効果が出ないのは、COPDによる栄養障害の場合、単なる飢餓(エネルギー摂取量不足)ではなく、悪液質を認めるからです。悪液質の早期発見、早期治療がCOPDの栄養管理では求められます。

そうすると、COPD患者には単にBCAAを投与すればよいのではなく、包括的呼吸リハの中で、薬物療法、運動療法、酸素療法、生活指導を同時に行い、さらに適切にエネルギー摂取量を確保しておくことが必要条件だと思います。

COPD患者にNSTが介入して、栄養管理(適切なエネルギー量投与)も含めた包括的リハを行っているのに、栄養改善が難しい場合には、BCAA投与を検討してよいと考えます。

①Dal Negro RW, et al: Comprehensive effects of supplemented essential amino acids in patients with severe COPD and sarcopenia. Monaldi Arch Chest Dis. 2010 Mar;73(1):25-33.

AIM: Aim of the study was to investigate whether or not oral supplementation of essential amino acids (EAAs) may improve body composition, muscle metabolism, physical activity, cognitive function, and health status in a population of subjects with severe chronic obstructive pulmonary disease (COPD) and sarcopenia. METHODS: Thirty-two patients (25 males) (FEV1/FVC < 40% predicted), age 75 +/- 7 years, were randomised (n = 16 in both groups) to receive 4 gr/bid EAAs or placebo according to a double-blind design. When entered the study (T0), after four (T4), and after twelve (T12) weeks of treatments, body weight, fat free-mass (FFM), plasma lactate concentration (micromol/l), arterial PaCO2 and PaO2, physical activity (n degree steps/day), cognitive function (Mini Mental State Examination; MMSE), health status (St. George's Respiratory Questionnaire; SGRQ) were measured. RESULTS: EAAs supplemented, but not patients assuming placebo, progressively improved all baseline variables overtime. In particular, at T12 of EAAs supplementation, body weight (BW) increased by 6 Kg (p = 0.002), FFM by 3.6 Kg (p = 0.05), plasma lactate decreased from 1.6 micromol/l to 1.3 micromol/l (p = 0.023), PaO2 increased by 4.6 mmHg (p = 0.01), physical activity increased by 80% (p = 0.01). Moreover, the score for cognitive dysfunction improved from 19.1 scores to 20.8 (p = 0.011), while the SRGQ score also improved from 723 to 69.6 even though this trend did not reach the statistical significance. CONCLUSIONS. A three-month EAAs supplementation may have comprehensive effects on nutritional status; muscle energy metabolism; blood oxygen tension, physical autonomy; cognitive function, and perception of health status in patients with severe COPD and secondary sarcopenia.

②Baldi S, et al: Fat-free mass change after nutritional rehabilitation in weight losing COPD: role of insulin, C-reactive protein and tissue hypoxia. Int J Chron Obstruct Pulmon Dis. 2010 Feb 18;5:29-39.

Abstract
BACKGROUND: Fat-free mass (FFM) depletion marks the imbalance between tissue protein synthesis and breakdown in chronic obstructive pulmonary disease (COPD). To date, the role of essential amino acid supplementation (EAAs) in FFM repletion has not been fully acknowledged. A pilot study was undertaken in patients attending pulmonary rehabilitation. METHODS: 28 COPD patients with dynamic weight loss > 5% over the last 6 months were randomized to receive EAAs embedded in a 12-week rehabilitation program (EAAs group n = 14), or to the same program without supplementation (C group n = 14). Primary outcome measures were changes in body weight and FFM, using dual X-ray absorptiometry (DEXA). RESULTS: At the 12th week, a body weight increment occurred in 92% and 15% of patients in the EAAs and C group, respectively, with an average increase of 3.8 +/- 2.6 kg (P = 0.0002) and -0.1 +/- 1.1 kg (P = 0.81), respectively. A FFM increment occurred in 69% and 15% of EAAs and C patients, respectively, with an average increase of 1.5 +/- 2.6 kg (P = 0.05) and -0.1 +/- 2.3 kg (P = 0.94), respectively. In the EAAs group, FFM change was significantly related to fasting insulin (r(2) 0.68, P < 0.0005), C-reactive protein (C-RP) (r(2) = 0.46, P < 0.01), and oxygen extraction tension (PaO(2x)) (r(2) = 0.46, P < 0.01) at end of treatment. These three variables were highly correlated in both groups (r > 0.7, P < 0.005 in all tests). CONCLUSIONS: Changes in FFM promoted by EAAs are related to cellular energy and tissue oxygen availability in depleted COPD. Insulin, C-RP, and PaO(2x) must be regarded as clinical markers of an amino acid-stimulated signaling to FFM accretion.