2010年2月26日金曜日

PT・OT・STもNST専門療法士に

一昨日からJSPEN、第25回日本静脈経腸栄養学会に参加しています。

今回一番嬉しい驚きだったのは、今後、JSPENで認定しているNST専門療法士の対象職種が、従来の管理栄養士、看護師、薬剤師、臨床検査技師に、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、歯科衛生士の4職種が追加となったことです。

これはNSTの中に嚥下リハをより取り込んでいこうという流れだと考えます。
個人的には嚥下以外の部分でのリハに関しても、体重増加を脂肪ではなく筋肉量の増加につなげることや、同じ栄養状態でもADLやQOLをより高めることなど、PT・OT・STがNSTの中でできることはたくさんあると思います。

具体的にいつから受験できるかなどの詳細はまだわかりませんが、受験に必要な30単位や教育セミナーの受講、NST教育施設での実習、症例レポート作成は、基本的に今までと同じだと思います。詳細はJSPENのNST専門療法士情報のHPを参照してください。

http://www.jspen.jp/eiyouRyouhousi-new.html

PT・OT・STがNST専門療法士になれることで、PT・OT・STの中での栄養に対する関心が高まることを期待していますし、自分も今まで以上にリハの世界の中でNST・栄養、リハ栄養の普及を頑張らなければいけないと強く感じています。

2010年2月23日火曜日

JSPEN・NSTフォーラム

明後日から第25回日本静脈経腸栄養学会(JSPEN)があります。

http://jspen.jp/jspen2010/index.html

NSTの最も大きな学会ですし、栄養に関心のあるPT・OT・STも一番数多く参加する学会だと思います。私ももちろん参加します。

明日は学会前日のJSPEN・NSTフォーラムが14時~17時まで幕張メッセ2階コンベンションホールであり、私も発表してきます。

http://jspen.jp/jspen2010/jspen_nst2010/jspen_nst2010.html

総合司会・企画 丸山道生 東京都保健医療公社大久保病院 外科

○学会長挨拶 城谷典保 東京女子医科大学八千代医療センター 外科

○理事長挨拶 平田公一 札幌医科大学医学部第一外科学講座

○基調講演 東口髙志 藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座

○シンポジウム 「口から食べる」を続けるために、病院と在宅での挑戦
若林秀隆 横浜市立大学附属市民総合医療センター リハビリテーション科
五島朋幸 ふれあい歯科ごとう
菊谷 武 日本歯科大学附属病院 口腔介護・リハビリテーションセンター

○パネルディスカッション:「ここまでわかっている半固形化―そのコンセンサス」
司会 : 鈴木 裕 国際医療福祉大学外科、山中英治 若草第一病院
日本栄養材形状機能研究会
調査ワーキンググループ 丸山道生 東京都保健医療公社大久保病院 外科
用語ワーキンググループ 飯島正平 箕面市立病院 外科
研究ワーキンググループ 清水敦哉 済生会松坂総合病院 内科
摂食嚥下ワーキンググループ 伊藤彰博 藤田保健衛生大学医学部外科・緩和医療学講座

主催:日本静脈経腸栄養学会・NST 委員会NST プロジェクト

経口摂取・嚥下リハと栄養管理を分けて考える人もいます。しかし、私は嚥下リハと栄養管理に同時に取り組まなければ、特に筋萎縮の嚥下障害に対しては効果が少ないと考えています。リハ栄養の考え方も若干紹介する予定です。お時間のある方はぜひ参加していただければと思います。

科学者たちの奇妙な日常

今日は松下祥子著、日経プレミアシリーズ科学者たちの奇妙な日常を紹介します。

http://www.nikkeibook.com/book_detail/26030/

目次
第〇章 「どうして科学者なんかに?」
第一章 科学者の生態分析
第二章 研究で稼ぐには?
第三章 研究をオモテに出す
第四章 博士はどこにいる? 
第五章 これができなきゃ科学者じゃない!
第六章 あなたはどの科学者タイプ?
第七章 拝啓総理大臣様 科学立国にするおつもりあって?

a女性科学者のスペース2という人気ブログを執筆されていて、そのブログが一部書籍のベースになっているようです。

http://a-scientist.jugem.jp/

内容的に面白い(両方ですがどちらかというとFunny>Interesting)ので、ブログを見ていただき面白そうなら書籍も読んでいただくとよいと思います。

自分がInterestingと感じたのは第五章の科学者の条件です。学士、修士、博士と分けて紹介しています。理工系と医学系では多少、条件も異なるとは思いますが…。

学士に必要な能力:「自分で考えて行動できる人間」。大まかな問題解決方法は提示されている。具体的には、
・理解力
・説明能力
・文章力
・プレゼンテーション能力
・ディスカッション能力
・日常英語会話
・英語読解力
・問題解決のための調査能力
・問題解決方法‐実行力
・データの読解力

修士に必要な能力:問題解決「方法」を発見できる人間
・自己訓練(後輩に指示を出す立場として)
・データの解析力
・現場での問題解決法発見能力

博士に必要な能力:「研究開発分野において、なにが問題かを発見できる人間」
・問題発見能力
・英語での発表力
・英語作文能力
・専門に関連した知識の蓄積

自分を振り返ってみると、学士に必要な能力(多くはコミュニケーション能力ですが)を大学卒業時に身につけていたかというと全然です。今なら大丈夫かなと感じますが、30歳を過ぎてから身に付けたというのが実情です。

修士に必要な能力までなら何とかという気もしますが、博士に必要な能力は明らかに不足しています。実際、博士ではありませんし…。国際学会での発表経験はありますが、「専門の事柄について世界レベルでディスカッションできる人」ではありません。日本レベルならディスカッションできますが。

こういった研究開発分野におけるコミュニケーション能力や問題発見・解決能力を身につけることは、道は遠いしなかなか大変だなと感じます。日常生活や臨床現場でのコミュニケーション能力や問題発見・解決能力とのギャップは大きいです。

ただ、大学院博士課程に入学すれば
・問題発見能力
・英語での発表力
・英語作文能力
・専門に関連した知識の蓄積
を体系的に教えてもらえて身に付くかというと、そう単純でもありません。大学でさえ基本的には主体的に学ぶ場ですから、大学院はなおさら放置(主体的に学ぶのみ)されることもあるようです。昔よりは状況は改善されているようですが。

どちらにしても主体的な学習を生涯継続することが重要で、自分の目標(登る山)をどこにするかを決めることが大切です。ただ高く登るには、「研究開発分野において、なにが問題かを発見できる人間」になることが必要条件かもしれません。

2010年2月18日木曜日

嚥下相談窓口

神奈川摂食・嚥下リハビリテーション研究会で作成、配布している神奈川県内の嚥下相談窓口一覧(現時点で49カ所)が、PDN(PEGドクターズネットワーク)のHPにアップされました。

http://www.peg.or.jp/network/kanagawa/kanagawa_list.pdf

NST嚥下連絡票(こちらもPDNのHPからダウンロードできます)とともに、摂食・嚥下障害患者の地域連携に活用できるのではないかと考えています。

がん悪液質に対するチーム医療の論文

今日はがん悪液質に対する多職種連携型チーム医療の論文を紹介します。

An Interdisciplinary Approach to Manage Cancer Cachexia
Clara Granda-Cameron, et al: Clinical Journal of Oncology Nursing14(1): 72-81, 2010.

抄録意訳:がんによる悪液質に対する多職種連携型チーム医療は、アウトカムを改善する可能性がある。都市型の地域がんセンターの緩和ケアプログラムとして、低栄養リスクの高いがん患者の症状、栄養、機能、QOLの改善を目的とした多職種連携型チーム医療を行った。がんの食欲とリハクリニック(Cancer Appetite and Rehabilitation Clinic)のチームは、医師、看護師(がん)、管理栄養士、言語聴覚士、理学療法士で構成されている。このチームによる早期介入と積極的な症状管理は、機能状態とQOLを改善させる可能性がある。

補足:クリニックは毎週午後半日枠で行い、最大6人まで多職種で診察。1回の診察時間は45-90分。1回のみの患者も継続的に関わっている患者もいる。作業療法士はチームメンバーに入っていないが、患者によって作業療法を推奨することがある。アウトカムは比較群のないパイロット研究のレベル。

管理栄養士の評価項目は、身長、体重、体重変化、24時間想起法による食事摂取量、間接熱量計、身体構成(インピーダンス法)、AMC、TSF、検査値(アルブミン、プレアルブミン、テストステロン、ビタミンD)。テストステロンやビタミンDが低値なら治療する。

PTの評価項目は、病歴(機能、疲労・睡眠のパターン)、診察(四肢体幹のROMとMMT、歩行分析による姿勢と機能の評価、パルスオキシメーターを使用した歩行耐久性)、評価(PT介入で改善を期待できる機能障害の有無、ゴール)、プラン(自主トレ指導、エネルギー保護テクニックによる疲労管理、生活スタイルのアドバイスなど)。

私の考え:自分が考えているリハ栄養チーム(少なくとも医師、看護師、PT/OT/ST、管理栄養士は必須)に近いです。NSTにPT/OT/STが入ればよいですが、3職種とも参加しているNSTは少ないと思います。

がん以外でも悪液質の原因疾患(がん、関節リウマチ、慢性心不全、慢性腎不全、慢性閉塞性肺疾患、肝不全、慢性感染症:AIDS、結核など)を認める栄養障害患者では、栄養障害の有無や程度だけでなく、必ず悪液質の有無をNSTで診断すべきです(下記参考)。

悪液質を合併している場合には、栄養療法単独での改善は困難(リハ単独での改善も困難)なため、リハ栄養チームもしくはPT/OT/STがいるNSTによる介入が望ましいと考えます。

悪液質の診断基準(成人)
 悪液質の原因疾患が存在し、12ヶ月以内に5%以上の体重減少(もしくはBMI<20)を認め、さらに以下の5つのうち3つの基準を満たす。
 筋力低下
 疲労
 食思不振
 除脂肪指数の低下
 検査値異常(CRP>0.5mg/dl、Hb<12.0g/dl、Alb<3.2g/dl)
Evans WJ, et al: Cachexia: A new definition. Clinical Nutrition, 27: 793-799, 2008

論文抄録:Cancer cachexia occurs in about 33% of newly diagnosed patients with cancer and may lead to delayed, missed, or decreased treatments. An interdisciplinary team approach to manage cancer cachexia may result in fewer missed treatments and improved outcomes. The palliative care program of an urban community cancer center developed an interdisciplinary clinic to treat cancer cachexia with the goal of using an interdisciplinary approach to improve symptom management, nutrition, function, and quality of life (QOL) for patients with cancer at high risk for malnutrition. The Cancer Appetite and Rehabilitation Clinic team completes medical, nutritional, speech, swallowing, and physical therapy evaluations and then develops an individualized program directed to meet patients’ needs and improve overall QOL. Patient outcomes are measured by symptom management and nutritional and functional parameters. Early intervention and aggressive symptom management may improve performance status and overall QOL. Results from this project will be used to expand this innovative program. The process of developing and implementing this clinic may help oncology nurses and other healthcare professionals to improve management of cancer cachexia and overall cancer care.

2010年2月17日水曜日

ネクスト・ソサエティ

今日はP.F.ドラッカーのネクスト・ソサエティ、ダイヤモンド社を紹介します。アマゾンでは200円弱で中古書を購入できるようです。

http://book.diamond.co.jp/_itemcontents/0201_biz/19045-3.html

目次
第Ⅰ部 迫り来るネクスト・ソサエティ
第1章  ネクスト・ソサエティの姿
第2章  社会を変える少子高齢化
第3章  雇用の変貌
第4章  製造業のジレンマ
第5章  企業のかたちが変わる
第6章  トップマネジメントが変わる
第7章  ネクスト・ソサエティに備えて

第Ⅱ部 IT社会のゆくえ
第1章  IT革命の先に何があるか?
第2章  爆発するインターネットの世界
第3章  コンピュータ・リテラシーから情報リテラシーへ
第4章  eコマースは企業活動をどう変えるか?
第5章  ニューエコノミー、いまだ到来せず
第6章  明日のトップが果たすべき五つの課題

第Ⅲ部 ビジネス・チャンス
第1章  企業家とイノベーション
第2章  人こそビジネスの源泉
第3章  金融サービス業の危機とチャンス
第4章  資本主義を越えて

第Ⅳ部 社会か、経済か
第1章  社会の一体性をいかにして回復するか?
第2章  対峙するグローバル経済と国家
第3章  大事なのは社会だ――日本の先送り戦略の意図
第4章  NPOが都市コミュニティをもたらす

読む順番としては、「はじめて読むドラッカー」三部作の『プロフェッショナルの条件』、『チェンジ・リーダーの条件』、『イノベーターの条件』(この順番で)が先で、その次に読んだほうがよい本だと感じています。

ざっくり言うと、次の社会(2010年時点ではすでに現在ですね)は「知識社会かつ少子高齢社会」です。知識はより専門化、細分化されます。情報は誰でもいつでもどこでも容易に入手できますので、それを一人ひとりが知識に変換することが可能です。

少子高齢社会のインパクトは今もありますが、数十年後は格段に大きくなります。今の定年の目安は60~65歳ですが、少子化による労働人口の減少、移民の急増を期待できないことを考慮すると、将来の定年は75~80歳、もしくは定年という概念自体、過去のものになっているかもしれません。私も生きていれば当分働けますね(笑)。

知識社会としてのネクスト・ソサエティには3つの特質があると書いてあります。

①知識は資金よりも容易に移動するがゆえに、いかなる境界もない社会となる。
②万人に教育の機会が与えられるがゆえに、上方への移動が自由な社会となる。
③万人が生産手段としての知識を手に入れ、しかも万人が勝てるわけではないがゆえに、成功と失敗の併存する社会となる。

そのため、組織にとっても一人ひとりの人間にとっても、高度に競争的な社会となるそうです。

NSTや臨床栄養がこの数年であっという間に広がったのは、知識社会だからという要素がかなりあります。同時に少子高齢社会で栄養障害の高齢入院患者が多くなったという要素もありますが。リハ栄養の考え方も同様に広まればよいのですが…。

ただ「いかなる境界もない」かと言われると、実際には目に見えない境界があちこちにあるように感じます。頑張るだけではそう簡単には上方への移動はできませんし、成功者(成功の定義にもよりますが)はやや固定化されているように感じます。誰もが0からのスタートと言いますが、実際にはそうではないように感じます。

また、知識労働者(医療従事者は基本的に全員、知識労働者です)の自己規定というのも興味深いです。若干文章を変えていますが、以下のように書いてあります。

たとえ働いている大学や病院を誇りにしていたとしても、本当に属しているのはそれらの組織ではない。同じ組織にいる他の分野の者よりも、他の組織にいる同じ分野の者との間により多くの共通点を持つ。

すでに同じ分野の者の組織(医師会、看護協会、PT・OT・ST協会、栄養士会など)はいろいろありますが、今後、知識の専門化、細分化とともに、同じ分野の者の組織の数は今後さらに増えていくはずです。実際将来的には、リハ栄養に関心のある人たちで1つの組織を作りたいと考えています。

急激な変化と乱気流の時代にあっては、大きな流れ(若年人口の減少、労働力人口の多様化、製造業の返信、企業とそのトップマネジメントの機能、構造、形態の変容)にのった戦略をもってしても成功が保証されるわけではない。しかし、それなくして成功はありえないそうです。

今自分たちが生きている社会がどんな社会なのかを見つめるために、自分にとっての成功とは何かを考えるために、一読をおすすめします(プロフェッショナルの条件を読んだ後に)。

2010年2月16日火曜日

コメディカルのための論文の書き方の基礎知識

日本病態栄養学会から「コメディカルのための論文の書き方の基礎知識」という書籍が先月出版されました。

http://m-review.co.jp/book/17/bk17_0406_7.htm

内容としては、倫理的配慮,研究デザインと統計手法,論文の書き方,見習うことができる症例報告の例を分かりやすく解説し,多くの医療従事者が論文執筆の基礎および応用法を習得できるように編集されたそうです。

目次は下記の通りです(第2章だけ小見出しまで掲載しています)。
第1章 論文を書く前に

第2章 原著論文の書き方
1.研究デザインと統計手法

1.臨床研究の重要性
2.研究デザイン
3.統計手法(基礎編): データの要約
4.統計手法の選択(基礎編-1)
5.統計手法の選択(基礎編-2)パラメトリック検定とノンパラメトリック検定
6.統計手法の選択(基礎編-3)
7.統計手法(実例編)
8.統計手法(応用編)
9.アンケート調査のすすめ
10.臨床研究における管理栄養士の役割

2.論文の書き方

1.タイトル,キーワード,著者リストの記載方法
2.要旨の記載方法
3.緒言の記載方法
4.方法と対象の記載方法
5.結果の記載方法
6.考察と謝辞の記載方法
7.文献の記載方法
8.図表のつくり方

第3章 症例報告のすすめ
第4章 論文執筆の実践例

論文を書きなれていない管理栄養士などコメディカルに対して、質の高い優れた日本語論文を積極的に投稿するよう促すことが企画の意図ですので、わかりやすく記載されています。私も多くの方に原著論文を執筆してほしいと考えていますので、この意図には共感します。

臨床研究の実施まではすでに終わっているのに、学会発表のみで終わってしまったり(論文執筆の価値がある内容の学会発表の場合ですが)、論文執筆の段階でなかなか進まなかったりする人に特に有用ですので、そのような方におすすめします。

ただ、田中清先生が50ページで記載しているように、「この本を読んだだけでは論文を書けるようにはならない。詳しい解説書を読めば自動車が運転できるようになるか?水泳ができるようになるか?答えは否である。教科書で勉強したら。次は実践トレーニングが必要である。(中略)とにかく、まず書くことである。」というのが一理あります。ただし、書く価値のある臨床研究でなければ書く意味はあまりありません。その意味では書き方の前に、書く価値のある臨床研究を行うための学習が必要です。

研究デザインと統計方法に関してもわかりやすく解説されていますが、この書籍だけでリサーチクエスチョンを考えて臨床研究デザインを作成して実際に書く価値のある臨床研究を行うことは困難です。臨床研究の独学も不可能ではありませんが、かなり容易ではないので、研修会での学習や大学院での体系的な学習が望まれます。

そこで宣伝ですが、3月13日(土)の第2回神奈川NST専門療法士FD勉強会では、リサーチクエスチョンワークショップ「日常業務での疑問をリサーチクエスチョンに」を行います。その他に肝臓領域のミニレクチャー、特別講演「生活の場に視点を向けた退院調整のあり方」もあります。

http://www.peg.or.jp/news/information/kanagawa/100313.pdf

2月中なら申し込み可能ですので、NST専門療法士やNST専門療法士と同等の知識を有する医療従事者(医師、PT/OT/STなど)の方の参加をお待ちしています。

2010年2月11日木曜日

地域連携のあるべき姿

横浜南部地域一体型NSTをやっているためか、栄養の地域連携に関する講演や執筆の依頼がくることがあります。そこで、管理栄養士同士を含めた栄養の地域連携のあるべき姿をイメージしています。理想的な地域連携を行えている地域は少ないと感じています。

 地域連携では5W1H(Why、Who、When、Where、What、How)が明確なほうが、より連携が充実すると私は思っています。

よりよい地域連携の5W1H
Why:ビジョン・ミッションを明確にする
Who:誰とでも・超職種型(管理栄養士同士は当然でその他の職種とも連携)
When:いつでも(患者の移動時はいつでも連携)
Where:どこでも(患者の移動時は病院・施設・在宅に関わらずどこでも連携)
What:何でも(栄養管理や嚥下食は当然であるが他にも必要な情報は何でも連携)
How:人、物、金、知識、時間、感情の経営資源を適切にマネジメント

 次に摂食・嚥下障害の地域連携のあるべき姿は以下のようなものかなと考えています。あるべき姿を全く意識しなければ、問題意識は皆無であり問題が全くないということになります。

摂食・嚥下障害の地域連携のあるべき姿
・すべての摂食・嚥下障害患者に適切な栄養管理の地域連携がなされている。
・病院・施設内もしくは病院・施設外で、いつでも栄養管理や摂食・嚥下機能を相談できる窓口がある。(外来、往診、入院、いずれも対応可能)
・すべての病院・施設がレベル・段階分けが共通した嚥下食を提供している。
・すべての病院・施設の嚥下食の名称が同じである。
・採用している栄養剤に違いがあっても、すべての病院・施設でほぼ同じ栄養管理を継続できる体制にある。
・すべての病院・施設で共通の連絡票を用いている。
・高度の栄養管理や摂食・嚥下リハビリテーション、手術が必要な場合には、それらが実施可能な施設を把握していて、いつでも相談できる。
・近隣の病院・施設の管理栄養士は全員、顔が見える関係にある。
・栄養管理の地域連携に対して、労力に見合った診療報酬が認められている。
・栄養状態と栄養管理だけでなく、全人的医療に基づいた地域連携ができている。

 よろしければ皆様の考える地域連携のあるべき姿を教えていただけるとありがたいです。よろしくお願いいたします。

2010年2月10日水曜日

呼吸ケアチームとリハ栄養

今度の診療報酬改定で点数は未定ですが、呼吸ケアチーム加算が新設されることになりました。算定要件などを記載します。

呼吸ケアチーム加算(週1回) ○○○点
[算定要件]
① 一般病棟入院基本料、特定機能病院入院基本料(一般病棟)及び専門病棟入
院基本料の届出病棟に入院しており、48 時間以上継続して人工呼吸器を装着
している患者であること
② 人工呼吸器装着後の一般病棟での入院期間が1ヶ月以内であること
③ 人工呼吸器離脱のための医師、専門の研修を受けた看護師等による専任のチ
ーム(呼吸ケアチームという)による診療等が行われた場合に週1回に限り算
定する
[施設基準]
① 呼吸ケアチームは専任のア)~エ)により構成する
ア) 人工呼吸器管理等について十分な経験のある医師
イ) 人工呼吸器管理等について6カ月以上の専門の研修を受けた看護師
ウ) 人工呼吸器等の保守点検の経験を3年以上有する臨床工学技士
エ) 呼吸器リハビリテーションを含め5年以上の経験を有する理学療法士

リハ栄養的に考えると、急性疾患で人工呼吸器管理中の患者さんは、呼吸筋の筋萎縮が著明なことが多いため、私は上記の4職種以外に管理栄養士など栄養に詳しい職種が参加することが望ましいと考えます。

呼吸筋の筋萎縮の原因も、大きく以下の5つに分類できます。

廃用性筋萎縮
飢餓・侵襲
サルコペニア
悪液質
原疾患(神経筋疾患など)

廃用性筋萎縮は安静・不活動により生じる筋萎縮で、人工呼吸器管理下ではモードにもよりますが、合併している可能性が高いです。

飢餓はエネルギー消費量と比較してエネルギー摂取量が不足している場合ですが、人工呼吸器管理下では、不適切な栄養管理がされていることがあり、その場合には飢餓を合併します。

侵襲は手術、骨折、熱傷、発熱、感染症など生体へのストレスによって生じますが、急性疾患による人工呼吸器管理では当然感染など何らかの侵襲がありますので、侵襲による呼吸筋萎縮は必須と考えます。また、侵襲下の栄養管理は、単に多くのエネルギーを投与すればよいというわけではありません。

サルコペニアは狭い定義で加齢により生じる筋肉量の減少ですが、高齢の人工呼吸器管理患者ではサルコペニアを合併している可能性があります。

悪液質は、がん、慢性閉塞性肺疾患、慢性感染症(結核、AIDSなど)、慢性心不全、慢性腎不全、関節リウマチなど関連する複雑な代謝症候群で、筋肉の喪失が特徴です。人工呼吸器管理患者ではがん、慢性閉塞性肺疾患などを合併している可能性が多々あります。

原疾患による筋萎縮を合併していることも時にあります。

以上より、人工呼吸器管理患者が、様々な呼吸筋萎縮の原因を合併している可能性があります。それによって、呼吸筋萎縮への対応が異なるといえます。

特に廃用性筋萎縮や侵襲はほぼ必発であり、そのため適切なリハと栄養管理の併用が必要で、リハ栄養的な考え方が有用です。点数が具体化してから呼吸ケアチームを検討する施設が少なくないと思いますが、その際には管理栄養士など栄養に詳しい職種の参加を推奨します。

2010年2月9日火曜日

信頼性・妥当性のある栄養評価方法

今日はNorine C. Foleyらの
Which Reported Estimate of the Prevalence of Malnutrition After Stroke Is Valid? Stroke. 2009;40:e66-e74.の論文を紹介します。

抄録意訳:脳卒中後の栄養障害の有病割合を報告している論文を系統的レビューで検索したところ、18本の論文が該当した。有病割合の報告は6.1%から62%と大きな違いがあった。
4つの研究のみが妥当性を検証済みの栄養評価方法を用いていた。それらの研究では、Subjective Global Assessment(SGA), “an informal assessment,”Mini Nutritional Assessment(MNA)を用いていた。他の研究では妥当性検証済みの栄養評価方法を用いていなかった(例えば、BMI、体重、TSF、AMC、アルブミンやリンパ球数などの検査値)。
有病割合が研究間で大きく異なる理由の1つは、妥当性が検証されていない栄養評価方法を用いていることかもしれない。信頼性・妥当性のある栄養評価方法を用いた研究を行うことが望ましい。

私の解釈:臨床ではBMI、体重変化といった身体計測とアルブミンやリンパ球数など検査値で栄養評価をしているが、研究の世界ではこれでは不十分。むしろ臨床ではスクリーニングとして使用しているSGAやMNAのほうが、信頼性・妥当性のある栄養評価方法である。学会発表や論文執筆など臨床研究を行う際には、信頼性・妥当性のある測定方法を用いないとダメなので、SGAかMNAのShort formを全患者に行うことが必須である。

 個人的には今まで身体計測と検査値だけで学会発表や論文執筆をしていましたが、今後はMNAのShort formで栄養評価したもの(と身体計測と検査値)を発表しようと考えています。MNAの詳細は下記のHPを参照してください。

http://www.mna-elderly.com/

抄録
Background and Purpose—The reported prevalence of malnutrition after stroke varies widely, whereas it remains unclear
which of the estimates is most accurate. The aim of this review was to explore possible sources of this heterogeneity
among studies and to evaluate whether the nutritional assessment techniques used were valid.
Methods—A literature search was conducted to identify all studies in which the nutritional state of patients was assessed
after inpatient admission for stroke. The percentages of patients identified as malnourished in each study and method
of nutritional assessment are reported. For the purposes of this study, an assessment technique was considered valid if
at least one form of validity had been demonstrated previously through psychometric evaluation.
Results—Eighteen studies meeting inclusion criteria were identified. The reported frequency of malnutrition ranged from
6.1% to 62%. Seventeen different methods of nutritional assessment were used. Four trials used previously validated
assessment methods: Subjective Global Assessment, “an informal assessment,” and Mini Nutritional Assessment. The
nutritional assessment methods used in the remaining studies used had not been validated previously.
Conclusions—The use of a wide assortment of nutritional assessment tools, many of which have not been validated, may have
contributed to the wide range of estimates of malnutrition. If so, this underscores the need for valid and reliable assessment
tools to further our understanding of the relationship between stroke and nutritional status.

2010年2月4日木曜日

No Venture, No Glory

昨日、ゴルフの石川遼選手が抱負について質問され、
Nothing ventured, Nothing gain(ed).
と英語でコメントしていました。日本語では「虎穴に入らずんば虎児を得ず」、「何か新しいことに挑戦しなければ、何も得られない」という意味です。石川遼選手には私もとても感心しています。

今回は私のモットーであり好きな言葉の
No Venture, No Glory
にかなり似ていたので紹介してしまいました。日本語では「新しいことに挑戦しなければ栄光はない」という意味で、私が作った言葉です。

若いうち(今が若いかどうかは微妙なところです…)は何でも新しいことに挑戦しますが、だんだん年を重ねると今の環境が心地よくなってきて、Comfort zoneから抜け出せなくなることがあります。

Comfort zoneは確かに居心地がよいのですが、学習と成長が少ないので、いつまでもそこにいられるわけではなく問題があります。そこで常に自分に言い聞かせる意味で、メールアドレスもnoventurenogloryとしています。

No Venture, No Glory
を意識していなければ、リハビリテーション栄養という言葉を作ったり、書籍を出したり、ブログを書いたり、mixiでコミュニティを作ったりすることは決してなかったと感じています。

常に新しいことに挑戦するのはしんどいですが、節目の時か1年に1-2回くらいは自分がComfort zoneに留まっていないかどうかを振り返って、自分のVentureは何かを意識することが大切だと思います。

別件ですが、4月10日(土)に高松でリハ栄養の講演会を行います。

http://www.peg.or.jp/news/information/kagawa/100410.pdf

私が話をする機会はどうしても神奈川が多く、四国で話す機会はあまりありませんので、お近くの方はよろしければご参加いただければと思います。よろしくお願いいたします。

2010年2月3日水曜日

食思不振の診断方法

今日はサルコペニアと悪液質のコンセンサス定義の論文の中から、食思不振の診断方法を紹介します。

Muscaritoli M, et al: Consensus definition of sarcopenia, cachexia and pre-cachexia: Joint document elaborated by Special Interest Groups (SIG) “cachexia-anorexia in chronic wasting diseases” and “nutrition in geriatrics”. Clinical Nutrition (2010), doi:10.1016/j.clnu.2009.12.004

食思不振は前悪液質と悪液質のいずれの診断基準にも含まれている項目で、その評価はとても重要です。

通常は食欲の有無を本人に確認する程度でしょう。特に早期満腹感はがん患者の独立した予後因子(予後不良)という報告があります。ただその際、抑うつ状態や摂食・嚥下障害の合併の有無の確認が必要です。

定量的には、必要量の70%以下の食事摂取量であるかが1つの目安になります。VAS(ビジュアルアナログスケール)で評価する方法もあります。

より厳密な評価方法には質問票があります。日常診療で用いる必要はあまりありませんが、臨床研究の際には、このような信頼性、妥当性が検証済みの質問票を用いることが必要です。

FAACT(Functional Assessment of Anorexia/Cachexia Therapy)質問票というがん患者に用いる39項目の質問票があります。このうち12項目が食欲を含んだ栄養に関連しています(論文の表1)。正確な訳ではないかもしれませんが記載します。

・食欲良好である
・食事量は十分足りている
・自分の体重が心配である
・ほとんどの食事の味が不快である
・どの程度やせてみえるか心配である
・食事を始めるとすぐに食事への興味がなくなる
・「重たい」食事を食べるのは難しい
・家族や友人が食べるようにプレッシャーをかける
・嘔吐している
・食べるとすぐに満腹になる
・腹痛がある
・私の健康状態は改善している

これら12項目をそれぞれ5段階(まったくない、少しある、いくらかある、けっこうある、とてもある)で評価して得点をつけます。「食欲良好である」、「食事量は十分足りている」、「私の健康状態は改善している」はまったくないが0点、とてもあるが4点で、他の項目はまったくないが4点、とてもあるが0点として計算します。
合計点が24点以下なら、食思不振ありと診断してよいのではと提案しています。

論文の表では「自分の体重が心配である」がまったくないが0点、とてもあるが4点となっていますが、この質問票は点数が高いほどよいので、逆だと思います。

食思不振への対策に関してはあまり記載されていませんが、「家族や友人が食べるようにプレッシャーをかける」という項目が質問票に入っているように、NSTや管理栄養士が患者にもっと食べるように安易にプレッシャーをかけるのは、かなり悪いことです。「食ったか食ったか」と聞くだけで摂取量が増えるとも思えません。

食思不振の原因を鑑別して、それに見合った対処方法をとることが大切です。原因の一部を記載します。

・抑うつ状態
・摂食・嚥下障害
・味覚障害
・嗅覚障害
・吐気、嘔吐(胃食道逆流)
・VitB1不足状態
・悪液質、前悪液質
・侵襲(CRPが高い、発熱)
・薬剤性(副作用)
・食事の好み

他にも原因はありますが、食思不振で摂取量が少ないから安易に経管栄養剤の経口や静脈経腸栄養に走るのではなく、食思不振の原因を追究して対策を立案し実行することが重要だと考えます。

2010年2月2日火曜日

皮膚筋炎・多発性筋炎による筋萎縮とリハ栄養

今日は皮膚筋炎・多発性筋炎による筋萎縮とリハ栄養について検討します。

皮膚筋炎・多発性筋炎は、自己免疫疾患、膠原病の1種で、体幹に近い筋肉(腹筋、背筋、肩関節や股関節周囲の筋肉など)の筋力低下が特徴的です。詳細はWikipediaを参照してください。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%9A%AE%E8%86%9A%E7%AD%8B%E7%82%8E

筋萎縮の原因は、大きく以下の5つに分類できます。

廃用性筋萎縮
飢餓・侵襲
サルコペニア
悪液質
原疾患(神経筋疾患など)

このうち、皮膚筋炎・多発性筋炎は当然、原疾患に該当することになります。ただ、皮膚筋炎・多発性筋炎の患者が、他の4つの原因を合併していないとは限りません。

廃用性筋萎縮は安静・不活動により生じる筋萎縮ですが、筋力低下で活動量が低下しやすいので、合併している可能性があります。

飢餓はエネルギー消費量と比較してエネルギー摂取量が不足している場合ですが、皮膚筋炎・多発性筋炎では嚥下筋の筋炎による嚥下障害を合併することがあり、その場合には飢餓を合併しやすくなります。

侵襲は手術、骨折、熱傷、発熱、感染症など生体へのストレスによって生じますが、嚥下障害による誤嚥性肺炎を認めることがあります。

サルコペニアは狭い定義で加齢により生じる筋肉量の減少ですが、皮膚筋炎・多発性筋炎の発生は若年と中高年に2極化しており、高齢の皮膚筋炎・多発性筋炎の患者ではサルコペニアを合併している可能性があります。

悪液質は、がん、慢性閉塞性肺疾患、慢性感染症(結核、AIDSなど)、慢性心不全、慢性腎不全、関節リウマチなど関連する複雑な代謝症候群で、筋肉の喪失が特徴です。皮膚筋炎・多発性筋炎で悪液質を生じるという論文は見つけられませんでしたが、慢性炎症の疾患であり、間質性肺炎を合併することも少なくないことより、皮膚筋炎・多発性筋炎の患者では悪液質を合併している可能性があると考えます。

以上より、皮膚筋炎・多発性筋炎の患者が、他の4つの筋萎縮の原因を合併している可能性があります。それによって、筋萎縮への対応が異なるといえます。

合併していない場合には、治療は薬物療法が中心でリハも行います。ただし、筋炎の活動が活発(血液検査でCK:クレアチンキナーゼが高値)なときは逆効果になりますので、レジスタンストレーニング(筋力トレーニング)は禁忌です。

エビデンスはありませんが1つの目安として、CKが500以下であれば、軽いレジスタンストレーニングを行い、CKの変化をモニタリングします。それでCKが500を超えるようであれば安静(関節可動域訓練は可)、超えないようであれば負荷量を少し増やします。

廃用性筋萎縮やサルコペニアを合併している場合には、レジスタンストレーニングで改善が期待できるため、よりレジスタンストレーニングが必要です。ただし、CKなどで筋炎の活動をモニタリングしながら行います。

飢餓と侵襲の場合には、適切な栄養管理と侵襲の原因疾患の治療が必要です。栄養障害のときに不適切な栄養管理のままレジスタンストレーニングを行うのは逆効果です。

皮膚筋炎・多発性筋炎の患者に嚥下障害を認める場合には、筋萎縮による嚥下障害だけでなく、食道入口部開大不全を合併していて、バルーン拡張法や輪状咽頭筋切開術を要することもあります。

悪液質を合併している場合には、n3脂肪酸(EPA、DHAなど)、高蛋白食(体重1kgあたり1.5gの蛋白が有効という報告あり)、廃用予防の運動の併用が必要です。

このように皮膚筋炎・多発性筋炎の患者に対しては、原疾患の治療・薬物療法がメインではありますが、同時にリハ栄養的な考え方も重要です。筋炎の活動にあわせた適度な運動療法と食事療法(十分なエネルギー、高蛋白、脂肪はn3脂肪酸中心、ビタミン、ミネラルも十分に)の併用がよさそうです。