2010年1月4日月曜日

臨床研究とリサーチ・クエスチョン

リハ栄養を学問として発展させていくには、臨床研究の実施が極めて重要です。仮説としてリハ栄養が重要であることは間違いないと考えていますが、この仮説を検証しなければあくまで仮説のままで、真実かどうかは不明です。

臨床研究は以下の7つのステップに分類されます。この順番を1つずつ踏んでいくことで、より質の高い臨床研究になります。

ありがちな研究として、カルテなどで最初にデータを集めてから何か言えないかあれこれ考えるという流れがあります。しかし、データを集める前までに、よい研究かどうかの9割が決まります。

ステップ①:リサーチクエスチョン(RQ)の作成
 臨床などで感じた疑問をPECOの形にする。
ステップ②:情報の検索
 情報源(PubMed、Google Scholar)から論文を十分に検索する。
ステップ③:RQの再吟味と概念モデルの作成
 検索結果を考慮してPECOを十分に再吟味する。概念モデルで仮説形成か検証かを判断する。
ステップ④:臨床研究デザインの選択
 リサーチクエスチョンの解決に最適な研究デザインを選択する。
ステップ⑤:研究プロトコール・アウトライン作成
 概念(PECO)の変数化、サンプリング、データ収集方法、解析計画、倫理的配慮等を検討する。
ステップ⑥:研究の実施(データ収集、分析)
ステップ⑦:研究の発表(学会発表、論文執筆)

この中でもっとも重要なのはリサーチクエスチョン(RQ)の作成、吟味ですので、RQについて記載します。RQはPECOで表現します。PECOとは、

Patient(対象、患者)
Exposure(曝露、要因)
Comparison(比較、対照)
Outcome(アウトカム)

の頭文字をとったもので、PICO(Intervention、介入)とも言います。

なぜRQをPECOの形に構造化するか、しなければいけないかの理由として、

・自分の漠然としたクリニカル・クエスチョン(CQ)が明確なRQになる。
・臨床研究に必須の4項目(研究の大黒柱)を含んでいる。
・PECOがダメなら、ランダム化比較試験であってもダメな研究にしかならない。

が挙げられます。漠然としたのままではRQになりません。ちなみに症例報告、症例集積、質的研究はPECOに形にすることは難しいです。

私が昔作成したPECOの一例を紹介します。どんな臨床研究であるかが伝わると感じませんか。ただ、諸々の理由で研究には至りませんでした…。

Patient(対象、患者):誤嚥性肺炎の入院患者に、
Exposure(曝露、要因):嚥下リハとNSTによる栄養ケアマネジメントを行うと、
Comparison(比較、対照):嚥下リハと主治医の栄養管理と比較して、
Outcome(アウトカム):退院時の経口摂取が改善するか。

次によいPECOかどうかは、“FINER”の視点で考えます(Hulley、医学的研究のデザイン:研究の質を高める疫学的アプローチ- 第3版、2009)。
Feasible:実現可能性。例えば自分の病院でできること。
Interesting:興味深い。周りの人に聞いてみるとよい。
Novel:新規性がある。過去の文献チェック。
Ethical:倫理的配慮。説明と同意、匿名化、倫理審査委員会。
Relevant:重要性。聞く人・読む人に役立つか。患者と社会に役立つか。
これらで繰り返し練ってすべてを満たすものがいいRQです。上記のPECOではFeasibleが最も大きな問題でした。

臨床研究を行うことは、学習と成長の貴重な機会にもなります。FDの問題発見・解決能力、マネジメント能力、コミュニケーション能力、生涯学習能力のすべてを磨くことができます。

まずは自分が質の高いリハ栄養の臨床研究を行わなければいけません(英語の原著論文を1本も執筆していませんし…)が、多くの方に臨床研究に挑戦してほしいと思います。

2 件のコメント:

  1. 匿名1/14/2011

    わかりやすい解説ありがとうございました。PECOをたてるのは難しいですよね。1年以上かかっています・・・かかりすぎ?

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  2. コメント、どうもありがとうございます。PECOは研究の大黒柱ですし、FINERなPECOを作ることはなかなか難しいです。PECOがダメだと取り返しがつかないので、期間を限定しないでじっくりもむ必要があると考えます。

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