2009年12月13日日曜日

継続教育と看護の実践知

高梨俊毅監修、看護医療系職の「高度専門職化」への道 継続教育と看護の実践知 KIERA(学会)活動20年の足跡を辿る(看護の科学社、2009)という本を読みました。

http://www.kango.co.jp/shoseki/keizokukyoiku.htm

KIERA学会とは、学会HPからの引用ですが、<ナラティブアプローチ>の一形態である「体験のことば化」を主たる<継続教育方法・研究方法>とすることによって、保健・医療・福祉系臨地専門職の≪Profession化=高度専門職化≫を導く、≪「継続教育力」と「実践知力」≫の内実を具体的に明らかにせんとする『学際的継続教育学会』であるとのことです。

http://homepage3.nifty.com/kiera/

この本を読むまでKIERA学会の存在も知らなかったのですが、感じたことが3つあります。

①この本でも体験をことば化することで経験からの学習を深めることが、看護師など保健・医療・福祉職の継続教育や研究に重要であると述べられています。

これは先日紹介した経験学習モデルとほぼ同じだと考えます。先行研究によるエビデンス、歴史、他人の経験からの学習ももちろん重要ですが、自分の経験から深く学ぶことも重要です。

まずいラーメン屋は20年たってもまずいと言いますが、ただ経験を積み重ねるだけで経験学習モデルのサイクルを回さなければ、医療人もまずいままだと感じます。

②アメリカでの専門看護師教育についての記載があります。日本では専門看護師の取得には修士が必要で、これでもかなり敷居が高いと感じていました。しかし、アメリカでは2015年以降、高度専門職の資格を志願するものは、博士レベル(Doctor of Nursing Practice:DNP、これはPh.Dとは異なる)で獲得しなければならないという声明書が採択されたとのことです。

DNPに要求されるコンピテンシー(エッセンシャルズ)には、以下の8つがあるそうです(p95-100)。

・科学的根拠に基づいた実践
・システム的思考を持った高度なリーダーシップ能力
・エビデンスに基づいた実践的判断能力
・ヘルスケアを改善したり変革したりするためのITや治療のために活用されるテクノロジーを使いこなす能力
・ヘルスケア制度改革の代弁者として活躍する能力
・ヘルスケアチームメンバーとの効果的なコミュニケーションやコラボレーション能力
・国民の健康増進や、疾病予防と公衆衛生に関する知識と技能を持っていること
・高度看護実践に関する能力

DNPプログラムはアメリカ各地の大学にあり、その数は200校以上だそうです。
最後の看護実践を各職種の専門知識・技能に置き換えれば、その他の7項目は他の医療職種にも求められるコンピテンシーかもしれません。

これだけのコンピテンシーを身に付けたDNPの看護師と一緒に仕事をできればとても心強いと思います。一方、単純比較はできませんが、DNPの看護師のほうが今の私よりは仕事ができる気もします。

例えば私は政策を考えたことはほとんどなく、「ヘルスケア制度改革の代弁者として活躍する能力」は皆無に近いです。日本の医師向けの大学院は基本的にPh.Dで、研究(大半は基礎研究)を行えばよいので、かなりの違いを感じます。個人的にはPh.DよりDNPのほうに魅力を感じます。

③看護教育における研究の位置づけの変化も興味深く読みました(p108-110)。

アメリカでは従来、看護研究方法と研究すること自体を学士、修士レベルの学生に教えることに焦点を当てていたそうです。これは今の日本が同じ状況です。

しかし、学士と修士では、EBNに主な注目がおかれ、研究がもたらした結果を評価し、どのようにその知識を実践に利用できるかに焦点を移行しているそうです。

Ph.Dはもちろんオリジナルな研究実施が必須ですが、DNPはEBNをとりいれたアクションリサーチ的なプロジェクト報告書などでもよいそうです。

学士や卒後3年目によく行われる院内看護研究は、やや無理があるように私は感じます。どちらも1年以内でリサーチクエスチョンの作成から発表(学会、論文)まで経験させることが多いと思います。しかし、一定以上の質の研究を、他の学業や仕事と並行しながら1年以内で行うことは極めて困難です。やらされ感だけが残ったという話も聞きます。

他の学業や仕事がフリーで研究に専念できる環境であれば、2年で仕上げることは可能かもしれません。つまり、修士であればEBNの習得だけでなく、論文執筆がゴールでもよいと思います。

私の知り合いの看護師は、修士の2年間ではEBNと研究方法を身につけることでせいいっぱいだったと言っています。私が行った質的研究は一昨日、アクセプトの連絡をいただきましたが、リサーチクエスチョンの作成から4年かかっています。雑誌に掲載されるのは来年で、掲載までは4年半というところでしょう。これは遅すぎかもしれませんが…。

日本でも看護学士では研究実施よりEBNに重きが置かれるようになるのではないかと予測しています。院内看護研究も継続するのであれば、卒後4年目以降から3-4年間かけて、グループで1つの研究を仕上げるほうが意味があるのではと感じます。

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